約 541,873 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1694.html
オレンジデー 1 ある日の朝、上条は緊張していた。 どのくらい緊張していたかと言うと、遠足前に眠れない子供並みには緊張していた。 心なしか、鏡で見る自分の目は若干赤い気がする。(でもま、仕方ないよな) そう仕方ないのだ。なんと言ったって今日は上条当麻の大一番だ。 先週、電話で予定を取り付けたのだが、予定を取り付ける時点で上条の心臓がバクバクだ。電話が終われば徐々に落ち着いてきたのだが、昨日になるとまたドキドキしてきた。 なのだが、今は緊張こそすれドキドキはしていない。もしくは、余りの緊張で気付いていないのか。いや、今はいいか、と浴室(寝床)から出る。 上条が起きてから最初にする事は決まっていた。「あ、おはよー、とうま。ねね、お腹すいたかも」「わーってるよ」 既に起きているインデックスの朝食の用意である。 冷蔵庫を開け、中に入っている物を手に取りながら朝食のメニューを考える。「げっ、これ賞味期限今日じゃねぇか」 うわ、これもだ。上条家には珍しく賞味期限ギリギリの食材をいくつか発見する。ハムにレタス、あとトマト。それらを見てから、何となくレンジの上に置きっぱなしの物へ目をやる。 食パンが置いてあるのだが一応確認してみる。こちらも賞味期限がギリギリだった。 なんだろう。サンドウィッチでも食えという天のお言葉か何か?「ま、いっか。作るのも楽だし」 まずパンを用意します。その上にハムを乗せます。さらにレタスを乗せます。そして輪切りのトマトを乗せます。最後にパンで挟みます。サンドウィッチの完成。まぁお手軽。 寂れた喫茶店でももう少し手を掛けて作りそうな気がする。 バターもマヨネーズ等も塗っていない、素材の味を楽しみなさいと言わんばかりのサンドウィッチを牛乳と一緒にインデックスに差し出す。「いただきまーす!」 しかしインデックスはいつもと同じくガツガツむしゃむしゃとあっという間に平らげる。時々思うのだが、インデックスにとって味は大した問題ではないのかもしれない。 インデックスとは対照的に、コーヒーを飲みながらゆっくりサンドウィッチを頬張る上条。(やっぱバターくらいは塗った方がよかったか?) 早速テレビを見ているインデックスの傍で、そう思いながら手抜きサンドウィッチを咀嚼していく。 コーヒーを半分ほど飲み、最後のサンドウィッチを食べている所で、上条は眼前へ聳え立つ問題をどう解決しようかと悩んでいた。 今日この後出かけるのだが、当然インデックスの昼飯は用意できないし、もしかしたら帰ってくるのも遅くなるかもしれない。さぁどうしよう。(小萌先生なら預かってくれそだけど、毎回毎回頼むのもアレだしなぁ……しかもいきなりだし) 最後のサンドウィッチを全て口に押し込み、残ったコーヒーで一気に流し込む。 空いた皿を集めキッチンで水につけておく。 とりあえず、いつまで経ってもパジャマというのも何なので、今日の為に予め決めておいた服を引っ張り出し浴室に引っ込む。(あー、ホントどうすっかなー。隣に舞夏が来てるなら任せられるんだけど……) その場合、義兄の追撃は覚悟せねばならないだろう。そして義兄から広がるであろう、クラスからの攻撃と口撃を。 それを思うともの凄く憂鬱だ。 が、しかし確か昨日「舞夏が一週間も修学旅行なんてそんな地獄は嫌だにゃー!! オレも修学旅行行くにゃー!!」と土御門が本気で泣きながら叫んでいた気がする。(となると、最悪小萌先生に預かってもらうしかないか……) いつもご迷惑をおかけして申し訳ないです……。着替えながら内心で謝る。 着替え終わり、髪型も彼なりに真剣にセットする。そのセット途中、部屋のインタホーンがなった。「はいはーい、今出ますよー」 こんな時間に誰だろ? と思いながら上条は玄関へ向かう。 もう時間は9時を回っているが、さすがに休日の朝9時に突撃してくるような奴は知り合いにはいないと思う。となると宅急便だろうか。 密かに親からの嬉しドッキリサプライズ宅急便を期待する上条。や、やっぱりドッキリはいらない。 ガチャリと扉を開けると、名前は知らないけど何度か見た事がある人がいた。子萌先生のとこに厄介になっているようで、インデックスを迎えに行く時何度か顔を見た事がある。 その人を見ながら「にしても……」と思う。上半身がさらしだけというのは、もしかしてそっち系の趣味でもあるんじゃないかと、変に勘ぐってしまうと同時に、気持ち変に身構える。「えー、と。確か小萌先生のとこに居た……」「結標よ。悪いわね、こんな朝早くに。いきなりだけど、インデックスはいるかしら?」「インデックス、ですか? いますけど」 玄関を開けたままインデックスを呼ぶ。 暇だったのか、スフィンクスを頭に乗っけてすぐにやってきた。「あ、あわきー、おはよー。ん、あれ? もうそんな時間?」「小萌がね、早めに迎えに行ってくれって。向こうを待たせるのも悪いしね」「そっか、じゃあちょっと待っててね。用意してくるんだよ」 そう言ってインデックスは再び部屋の奥へ引っ込んでいく。 なにがなんだか全く分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべている上条に微笑を浮かべた結標が説明をし始めた。「小萌がね、福引で遊園地の無料券を当てたのよ」「ああ、なるほど」 続く説明はこうだった。 福引で遊園地の無料券を当てたはいい物の、それが10名様分と明らかに団体様用だったのだ。で、どうせなら知り合いを集めて皆で行こうとなったのだという。 誘われたのはインデックス以外に目の前にいる結標と、小萌の同僚の黄泉川と彼女の同居人の数人だった。「ま、断る理由もないしねー。暇つぶしには丁度いいと思って」「えっと、インデックスの事、お願いしますね」「ええ、わかってるわよ。最も、小萌たちが面倒を見そうだけどね」 それもそうですね、と上条も頷く。 小萌は元より、黄泉川も手のかかる生徒の面倒を見る方が好きだと、確か青髪が言っていた気がする。何でアイツがそんな事を知っているかは知りたくもないが。 ともかく、その二人がいれば結標の出る幕はないだろう。 などと他愛のない会話をしていると、後ろから騒がしくドタドタと走ってくる音が聞こえた。「用意できたんだよあわき!」『忘れ物はない?』 上条と結標の声が綺麗に重なった。 二人は思わず顔を見合わせ小さく笑みを交わす。一方、下では同時に同じ事を注意されて面白くなさそうにしているインデックスがいた。「む~! もう行くんだよあわき!」「はいはい、わかったわよ。じゃ、この子借りてくわね」「はい、わかりました。インデックス、あんまり迷惑かけるんじゃないぞ」「わかってるんだよ! とうまはちょっと口うるさいかも!」 んなっ!? と上条が絶句する中、微笑を浮かべながら結標が「いってくるわね」と言うと同時、インデックスと結標の姿が綺麗に消える。「空間移動系の能力者さんだったのかぁ。羨ましいなぁ」 言いながら上条は部屋の中に引っ込む。 部屋に引っ込みすぐに洗面台に向かう。途中だった髪のセットを終わらせないと。けれど、ぱっと見何も変わっていないように見えるのだが、やっぱり本人的には何か違うのだろうか。 髪のセットも終わり、今何時かなぁと部屋の据え置きの時計に目をやる。 今の時間は10時。待ち合わせ時間は11時。待ち合わせ場所はあの自販機だから遠くないが、そろそろ出た方がいいだろう。「上条さんの不幸が出ないとは限らないし」 いい加減馴れたとは言え、やはり警戒するべき事だ。 ぼやきながら持物を確認する。財布は持った。中身もある。携帯も持った。充電も満タンだ。髪型も服装もバッチリ。うし、大丈夫。「あとは、これを忘れちゃいかんな」 本棚の中に隠しておいた、ラッピングされた一つの小さな袋を取り出しポケットに丁寧にしまう。 改めて持物を確認する。ついでに電気や戸締りも見る。「おし、おっけーと」 んじゃ行きますか。上条は靴を履いて玄関を出た。 上条当麻の一世一代の大勝負へと。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――「ふふふん♪ ふふふん♪ ふんふんふ~ん♪」 御坂美琴は朝からご機嫌だった。そりゃもうとってもご機嫌だった。下手したら限定版ゲコ太を手に入れた時よりも機嫌がいいかもしれない。 同時にとてもドキドキしていた。 今日は待ちに待った、夢にまで見た嬉し恥ずかしドッキリイベント。上条当麻と二人っきりのお出かけなのだ。(前みたいに罰ゲームとかじゃないもんねー♪) なんてったって今回は上条の方から誘われたのだ。これが嬉しくないはずがない。 誘われた時はもう、冗談か何かかと思ってしつこく確認も取った。電話の後も、まだ信じきれず何度もほっぺを抓った。夢かとも思ったがちゃんと現実だった。 それら全て確認した後、次第に頭も追いつてきて「うそー!? アイツからお誘い!? マジで!? 夢じゃないよね!?」と嬉しさのあまり叫んだ。 その直後に寮監に「うるさい!」と首を刈られたがそれを受けてもなお「えへへ♪ 夢じゃないんだぁ……♪」になるのだから、嬉しさは半端ないのだろう。「ねー、黒子ー。コレとコレ、どっちがいいかな?」 美琴が両手に持っているのはこの日の為に買った何着かの私服。 常盤台はいつ何時も問答無用で制服だが、だからと言って私服を全く持っていない訳じゃない。 むしろ、中学生というオシャレをしたい盛りの少女たちが持っていない訳がない。「ちょっと、黒子?」 いつまで経っても返事が返ってこないので、背を向けて座っていた黒子の正面に回る。 けれど美琴は何も言わず、元いた場所に戻り何処からか姿見の鏡を引っ張りだして「んー、やっぱりこっちがいいかなぁ」と今日着ていく服を吟味していた。 黒子は、一言で言うなら『白子』になっていた。食べると美味しい方では断じてない。「よし、決めた! これにしよ!」 言って美琴はパジャマを脱ぎ棄てて選んだ私服に袖を通す。 ついでにほんの少しだけ香水を付けてみる。たったそれだけなのだが、なんだかちょっとだけ大人な気分だ。 次に少し大きめのバックを取り出し、荷物を詰めていく。携帯とお財布と、他にも諸々。「あと、これ忘れちゃいけないわよね」 手のひらサイズよりも一回り大きい箱を手に取り、箱が引っ繰り返らない様しまう。 全部しまって忘れ物もないはずだが、一応中身を確認する。その後にもう一度姿見で自分の姿を確認する。服装よし髪型もよし。「うん、大丈夫ね。じゃ、行ってくるわねー」 どうせ聞こえていないと思うが言っておく。 行ってくると言いながら向かうのはドアではなく、部屋の窓。万が一寮監に見つかっては厄介だ。靴を持って窓から飛び降りる。 地面に着く寸前、磁力を操って壁に張り付き靴を履いてから着地する。(あ、そういえば) 時間を確認するのを忘れていた。 腕時計を見ると10時10分頃だった。待ち合わせはあの自販機だからそんなに時間はかからない。むしろ早すぎる。(ま、あのバカを待たせるよりはいいわよね) それはどちらかと言うと男の発想なのだが。 まぁそれはぶっちゃけ建前だ。本音は楽しみで楽しみでしょうがないのだ。 こう、新しいおもちゃを買ったが、家に着くのを待ち切れずつい開けてしまうとか、そんな心境に近い。 まだまだ時間もあるし、上条が到着しているとは限らないのに、気持ちが逸り歩を進める速さが心なしかどんどん速くなっていく。(あ、着いちゃった) 気付けばもう待ち合わせ場所。時間はまだ10時20分。いくらなんでも早すぎる。(う~、どうしよう……) とりあえず、いつの間にか出来ていた近くのベンチに腰を降ろす。 まだ来ないのはわかっているのだが「まだかな?」とキョロキョロ辺りを見回す。 腕時計を見ては「まだかぁ」と呟き、携帯を開いてはカメラ機能を使って「服も髪もおかしくないわよね? だ、大丈夫よね?」と不安になり、男の人の影が見えて「あっ! ……違うや…」と一喜一憂したり、それを一通りすると「まだかなまだかな」と再び辺りをキョロキョロ。(そういえばアイツ、なんか緊張してたなぁ) ふと思い出すのは上条が電話で誘ってきてくれた時の事。 あの時は自分も舞い上がりよくわからなかったが、今思えば上条の声が些か震えていた気がする。あと、時々上擦っていた気も。(ま、まさか、私を誘うのに緊張してたとか!?) 自分で思って自分で「きゃーっ!?」と顔を赤らめて手で挟むように押さえる。ついでに足もバタバタと動く。 周りから見れば挙動不審な人だが、幸い、人はほとんどいないので見知らぬ人に変なレッテルを貼られる事はなかった。 だが、『ほとんどいない』だけで『実は』いたりする。美琴がもう少し冷静なら木陰に隠れたとんがり頭に気が付いた事だろう。(で、でも! そういう事ならそういう事だよね!?) どういう事だ、と突っ込みが入りそうだが、仮に誰かがそれを聞いていても妄想に突入した美琴には聞こえていないだろう。『よぉ、待ったか美琴ー』『あ、当麻。ううん、私も今来たところ』『そっか。ならよかった。って言うと思ったか?』『へ?』『ほら、こんなに手が冷えてる。頬に当てるとよくわかるぞ?』『にゃにゃにゃ!?』『ったく……。美琴が風邪をひくのはいやだぞ、俺』『……ごめんにゃさい……』『分かったならよろしい。んじゃ、今日は何処行く?』『あ、今日はここ行きたい!』『おし、じゃ行こうぜ』『あっ……、ね、ねぇ当麻……』『わかってるよ。ほら、美琴。手ぇ出せ』『うん!』『恋人つなぎって、確かこうだよな』『ふにゃぁ……』 今の季節は初夏だぞ、という突っ込みは無粋だろうか。 最も、恋する乙女には季節は案外どうでもよかったりするのだが、同時にとても重要な事でもある。 恋する乙女の心は、ただでさえ複雑な女心よりも遥かに複雑なのだ。 その恋する乙女の妄想はもうノンストップで、頭の中では「こら~、待て美琴~!」「やーだよ! 捕まえてみなさいよー!」「アハハ!」「ウフフ!」な世界や、なんかもう『キャッキャウフフ』としか言えない世界が広がっている。 さすが恋する乙女。「ふ……」 しかし恋する乙女の想像は美琴に多大なダメージを与えたようだ。自分の妄想なのに。 木陰で彼女の様子を眺めている少年の目には、心なしか美琴の周りでピリピリッ! と言っているように見えていた。なんだか嫌な予感。「ふにゃ~……」「やっぱりー!?」 案の定、意識が飛びかけた美琴を中心に電気が漏れ始めた。 木陰に隠れていた少年は思わず飛びだし、椅子に倒れそうになっている美琴に右手を伸ばした。 しかし、「え、ああ、ちょ!? なぁ!? なぁ!?」 まだ辛うじて意識を保っていた少女の視界に飛び込んできたのは、目の前の木陰から飛び出してこちらに右手を突きだしてる、彼女の想い人だった。 上条当麻である。 突然の事態に美琴は勢いよく立ちあがる。気のせいか、彼女の周りで無秩序だった静電気が前髪に集中していっている。 激しく嫌な予感がして上条は右手を突き出したまま美琴の前に立ち止まる。「オノレはいつからそこにおったんかー!?」 予定調和というかなんというか、とりあえず飾りっ気のない本物の電撃が上条の右腕に突き刺さった。「口調がおかしくなってますよ御坂サン!?」「アンタのせいよ! いつから!? いつから見てたの!?」 顔を真っ赤にして「はぁ……はぁ……!」と息を荒げ、超電磁砲の射撃体勢を整えたカミナリ様が覗き見ていた変態へ正義の鉄槌を振り降ろさんとしていた。 その覗き見をしていた変態は、地べたに土下座しながら正直に応える事にした。なんか、変に誤魔化したらもっと大変な気になりそうな気がしたから、という訳ではない。単に深く考えていないだけである。「……、まことに申し上げにくい所存なのでございますが、最初からとご報告させていただきますでせう、はい……」「さっ……!?」 美琴が絶句する。 という事は「アイツはまだかなー」と待ち遠しそうな顔で待っていたのも、「まだこんな時間かぁ」とちょっと寂しげだったのも、「服も髪もおかしくないよね?」と不安そうだったのも、「も、もしこうなったらどうしよう……!」と他人に知られたら軽く死にたくなる妄想でニヤニヤしていたのも、(全部見られたって事……!?) なんかもう怒りや羞恥も全てどっかに吹っ飛び涙が込み上げてきた。「ふ、ふぇ……、ふぇぇぇぇぇ…………」「ええ!? みみみ御坂サン!?」 慌て驚く上条。まさか泣かれるとは思わなかった。 突然流れた美琴の涙に「ど、どうすれば!?」と辺りを右往左往する。 無い頭もフル回転させて何とか頑張ってみるが、何も思い浮かばない。 それでも必死に悩んだ結果、上条は素直に謝る事にした。「ごめんな、御坂……」 優しく、彼なりに優しく美琴の頭を撫でながら真剣に呟く。 しかし美琴は首をブンブン! と横に振るだけ。 なんだかいい匂いがしたが、今は間違ってもそれを言う場面ではないだろう。「ほんと、ごめんな……。何て謝ればわかんないんだけど、えっと、その、……ほんとにごめん……」 上条の声の真剣な雰囲気に、少しずつ悲しみや自責の念が次第に含まれていく。 美琴が泣きやむ気配はない。けれど、何かボソボソと言っているのが聞こえた。耳を澄ますと、「……なんかくれないと許さないもん……」 と言っていた。 それを聞いて、場違いだと思ったがなんだか可愛く思えた。 だって、可愛いじゃないか。普段大人ぶっている女の子が、こういう風に子供っぽくなるのは。 とはいえ、そういう風にしたのは自分なので手放しには喜ばないし喜べない。 それに、元々彼女にあげるために持ってきていた物があるのだ。本当は後で渡したかったのだが、彼女がそれで泣きやむのなら嬉しいと思った。「じゃさ、ちょっと顔を上げて目、閉じてくれないかな?」「ふぇ……?」 涙は引いてきたがまだ少し赤い目を擦りながら、美琴は顔を上げて言われた通り目を閉じる。 目を閉じてすぐ、上条の髪が自分の髪を梳くくすぐったい感覚が襲い、次に感じたのは自分の髪を止めていたピンが外れた音だった。「あっ……」 折角整えてきたのに、と言う前に今度は上条の手で新しいピンか何かで髪が止められた。 気になり手を伸ばすと「おし、開けていいぞ」と上条が言ったので、早速手鏡を取り出して確認する。「あ……」 今自分の髪を止めていたのは何かの花が付いた新品のピンだった。今までのは上条が手に持っていた。 驚いて彼の顔を見上げると、「ほら、先月ホワイトデーのお返しできなかったからさ。一月遅れだけど、受け取ってくれよなっ」 申し訳なさそうに髪をかきながら、それでも笑みを浮かべながら言った。 先月のホワイトデーは上条が入院していてお互いに何も返せずにいた。その後も年度末と言う事もあってお互い忙しく会えずじまいだった。 新しいピンに気を取られ、鏡越しにそれを見つめている美琴には「ま、それだけじゃないんだけどな」と呟いた声は届かなかったようだ。(コレって、オレンジの花、よね……? もしかして知ってたの? いや、でも。……うーん) 美琴の髪についていた新しいピンは、今までの花柄のピンよりも一回り大きい、オレンジの白い花が付いたものだった。 世間的には非常にマイナーだが、今日も立派なイベントの日なのだ。 先月、先々月と違い街でイベントがあったり、ムードが流れていたりと言う事はない。 けど、それでも女の子が勇気を出すきっかけになる程度には、立派なイベントだ。 でも、そのイベントを上条が知っているとは思いにくかった。 だって、きっと目の前の少年は「端午の節句って何の日?」って聞いても首を傾げるはずだ。 そんな風に思われている少年は、美琴が泣きやんだ事に調子に乗り、見様見真似で恭しく腰を折ってみる。「美琴お嬢様、ご機嫌はお直りになられたでしょうか?」 ニコッと笑いながら美琴に話しかける。 それを見て美琴は思わずドキッとした。 今日の上条の服が黒を基調したものだからだろうか、なんだか執事っぽく見えた。それも、自分専属の。「御坂さん……?」 しばし黙っていたが「……はっ!? いけないいけない!」とすんでのところで気付き、何とか妄想突入は回避された。 上条は上条で、なんだか無視された気分になってちょっとアンニュイな感じだった。「ふ、ふん! こんなんで機嫌が取れるほど私は安くないのよ!?」 と怒った口調で言うが、先ほどまでの感じはない。遊びとわかっていながら乗っかってくる感じだった。 上条もそれを感じ小さく笑ってから、笑みを浮かべたまま彼もそのまま続けた。「それは失礼しました。では、今日一日、私めが精一杯エスコートさせていただきますので、それでご容赦のほどを」「それはエスコート次第ね」「これは手厳しい」 まるでお嬢様と執事だが、二人の顔にあるのは笑顔だ。 二人とも本当に楽しそうに笑っている。 そして執事はお嬢様の手を引いてエスコートを始めた。 目的地は水族館。執事とお嬢様には不釣り合いだが、男の子と女の子が出かけるにはぴったりの場所。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 4月14日、もうお昼に差しかかる頃、上条と美琴はバスを降りて第6学区へと来ていた。 休日という事もあってバスはぎゅうぎゅうで中では二人は終始くっ付きっぱなしだった。 その間、もう二人は気が気じゃなかった。何か会話をしたような気もするが、その内容を全く覚えていない。(き、聞かれてなかったよな?)(聞かれてなかったわよ、ね?) テクテクと歩く二人はさっきからそればっかり思ってる。 余りに至近距離だったため、相手に触れているという事と互いに自分の鼓動が聞こえていないか。そればっかり気になってバスの中では会話どころじゃなかったのだ。 それがまだ続いていて、水族館へ続く道もなんだかもどかしい距離を保ちながら歩いていた。(もうちょっと近付いても大丈夫かな?)(もうちょっと近付きたいなぁ……) 付かず離れず。しかし手を伸ばせば確かに届く距離。あと一歩で手を掴める距離。だというのに、間に何かのラインでもあるかのように、二人は中々踏み出せずにいた。 木漏れ日の遊歩道、もっと近づきたいのにちょっとの勇気が絞り出せず、心なしか顔が赤い二人が歩く。 しかしそれでも、やっぱりこの沈黙はなんかきつい。(う~、なんか喋った方がいいよな……。でも、何をしゃべればいいんだろう……) そういえば、自分は美琴の事を余り知らない。 レベル5だの、第3位だのと強がっているが、その実はただの弱い女の子。 上条が抱いている印象はそれだ。しかし、美琴の好物はなに? と問われた時、ゲコ太としか答えられない自分もいる。(あ、や、そこで俺の名前を上げてくれたら上条さんはもう狂喜乱舞なんですけど……) でも、違ってたらすっげぇショックだなぁ……。そもそも好物って括りはどうなんだろう、俺……。 しかし全く望みがない訳ではないと自分では思っている。 先々月、わざわざ手作りでマカロンをくれたし、今日もこうやって誘いを受けてくれたし。(うーん、これってもしかしてフラグ建ってる……?) 急に「うーん」と悩みだした上条に、美琴は「どうしたんだろう?」と視線を送る。 とはいえ、実は美琴も内心では思いっきり悩んでいたりする。 その証拠に、普段ならすぐに「どうしたの?」と話しかけているところを、今は視線を送るだけだ。(こ、こういう時って私から話題振った方がいいのかな……? でも、どういうのがいいんだろう?) 美琴も今気が付いた。そういえば私、コイツの事あんまり知らない。 上条の趣味も他の事も何も知らない。こんなに心惹かれているのに、なのに上条の事をよく知らない。 バカで、無鉄砲で、デリカシーがなくて、あちこちでフラグを建てまくって、怪我ばっかりして、心配ばかりかけさせて、(でも、とっても頼りになって、一緒にいると楽しくて、すっごく強い奴……) 自分の事を、本当の意味でただ一人の女の子として見てくれる奴。 レベル5だとか、第3位だとか、そんな事を一切気にせず、自分に一切の遠慮をしてくれない奴。 思えば初めてかもしれない。黒子や初春や佐天とは違い、本当に何処までも対等に接してくれる馬鹿は。(でも、多分。ううん、絶対に、コイツがコイツだから私は……) 等と考え事をしていたら、気付いたら上条が前の方に居た。どうやら考え事のせいで歩くのが遅くなったようだ。しかも、向こうも何か考えていたせいで気付いていない。 上条の背を見ながら「もうっ!」と小さく頬を膨らませ、彼の背中に駆け寄る。 それで上条もようやく気付いたようで、こちらに振り向いた。「悪い悪い、気付かなくて」「もう、本当よ。ってきゃ!?」「おいってわ!?」 駆け寄ってくる美琴が躓き倒れそうになるのを受けとめようと手を伸ばすが、上条の方も後ろから人にぶつかられ前に倒れそうになる。 二人とも、さほど離れていない距離で前に倒れそうになりゴチッ! とおでことおでこがごっつんこだ。 なんだか額以外もぶつかった気がするが、二人は痛みで気付いていない。『~~~~~~~~~っ!?』 二人揃ってその場で額を抑え、涙目でプルプルと震える。 周りの通行人は、クスクスと小さく暖かく笑いながら通り過ぎる。「ってぇ~……。大丈夫か? 御坂」「ちょ、ちょっと大丈夫じゃないかも……」 見た目通りと言っていいのか、とにかく上条の頭はとっても硬かった。文字通り石頭だ。 それを不意打ち気味にモロに喰らった美琴の痛みは、多分上条の比ではない。 責任を感じた上条は、まだしゃがんでいる美琴を支えながら立たせ、手近な手すりに彼女を座らせる。「ちょっと待っててくれ」 おでこを摩って俯いている美琴に言って上条は美琴の傍を離れる。 そこから1分くらいで上条は戻ってきた。 美琴の前にしゃがみ込み、彼女の顔を下から覗き込む。「っ!?」 上条の突然のどアップに、さっきまでとは別の意味で顔が赤くなる美琴に、上条は手に持っていた物を彼女の額に優しく当てた。 ヒヤッとした感覚が気持ちいい。 なにが当たっているのか上目で見ると、そこらへんの自販機で売っているペットボトルのよく冷えたウーロン茶だった。「これで少しはマシになると思ってさ」「あ、ありがと……」 照れながら言う美琴に上条は「気にすんな」と笑った。 言ってから上条も美琴の隣に腰を降ろし、もう少し彼女が落ち着くまで待つ事にした。もう水族館は見えているから、少しくらいゆっくりしても大丈夫だろう。 なんとなしに上を見ると、暖かい木漏れ日が上条たちの辺りに差し込んでいた。 何でもない街の音が聞こえて、こうやって日の光を浴びて、(隣にはコイツがいて……。こう言うのを、しあわせ、って言うんだろうなぁ) 誰から見ても何処もおかしくはない。通行人の誰もがこちらに注目しない。ただの群衆と化している二人だが、それでも上条の心はポカポカだった。「なにニヤけてるの?」 おでこにお茶を当てながら美琴が突然聞いてきた。 なんだかそれが可愛くて、上条は小さく笑いながら立ち上がった。 オレンジの花が小さく揺れる。それが上条は無性に嬉しかった。「なんでもねぇよ。そろそろ行こうぜ」「教えてくれてもいいじゃな……わぷ!?」 ぼやきながら美琴も上条に続いて立ち上がり、ウーロン茶を彼に手渡したら、何でか右手で頭をいきなりわしゃわしゃと撫でまわされた。「ちょ、ちょっと! 何すんのよ!? 折角揃えてきたのにー!」 言いながら美琴はバックから手鏡を取り出して、手櫛で髪を整える。 それを背後に、上条は笑顔を浮かべながら一人先に水族館へ向かう。後ろからは慌てた感じで「ちょ、ちょっと!? 待ちなさいよ! 待ちなさいってばぁ!」そう聞こえてきた。 上条にはそれがとても楽しかった。 オレンジデー 2 若干不機嫌そうなお姫様を少し後ろにし、上条は水族館へと足を踏み入れた。 中は学園都市には少ない家族連れもここでは多く見られる。あとはグループで来てたり、カップルで来てたりで溢れ返っていた。 俺たちはどんな風に見られてんのかな。そんな事を思いながら上条は入り口で貰ったパンフに目を通す。「おっ。なぁなぁ、御坂。2時半と3時半にアシカショーとイルカショーがあるみたいだぜ」「ふーん」 話しかけるとそっけない声が聞こえた。 と言っても、不機嫌と言う訳ではないようだ。だって、落ち着きなく周りをキョロキョロと見ている。 なんというか、ワクワクを抑えきれない子供のようだ。 それを見ているとなんだかこっちも笑顔になる。「しゃあねぇなぁ」と上条は美琴の後ろに回り彼女の背を押す。「わっ!?」「早く見に行こうぜ。俺って、水族館初めてだから結構ワクワクしてんだよな」「そ、そう! ならしょうがないわね! 水族館マスターの美琴さんが案内してあげるわよ!」「よろしくお願いします」 上条の言葉を聞いた途端、なんか美琴の顔が輝いた。と、すぐにルートの入り口にまで走っていった。 上条が付いてこないのに気付いたのか、美琴は振り向き「早く来なさいよー!」と手を振っていた。「ほんと、こうやって見るとただの子供だよなぁ」 それもいいけどな。呟いて美琴の元へ駆け寄った。「もう! 遅いわよ!」「悪い悪い。さ、行こうぜ」 二人は並んで水族館の中へと消えていった。 その姿はどこまで行っても普通の物で、全く目立つ事はなかった。 と言うのは入り口に入るところまで。「あー……」 入口入ってすぐの水槽へ向かった美琴だが、水槽の中を自由に泳いでいる魚の悉くが美琴を避けるように泳いでいる。まるで、ガラスの向こうに半球でもあるかのように綺麗に寄らなかった。 おかげで、美琴は通路の端っこに寄り「いいもんいいもん……」と壁に文字らしきものを書いていた。(そういや『電撃使い』は動物が近寄ってこないらしいけど、魚も同じなのか?) きっとそうなんだろう。さっきのを見る限り明らかに美琴を避けていた。 頭をかきながら「どーすっかなー」と悩む上条に一つの嬉し恥ずかし解決策が見つかる。 徐に美琴へ近付き右手を伸ばす。「ふぇ?」 訳のわからない、ちょっと間抜けな顔で、美琴は掴まれた自分の左手を見る。 そしてちょっと考える。 えーと、隣にはコイツがいて、なんだか恥ずかしそうな顔をしていて、私は左手を掴まれていて、そんでもってコイツは右手で私の左手を掴んでて……、「にょわぁ!?」「おぉ!?」 突然奇声を上げる美琴に、上条がびっくりして半歩下がる。そのせいで美琴の体が僅かに引っ張られる。 それでまた周りから奇異の視線を集めるのだが、色々とテンパっている二人は気付いていない。「なななななななにしてんのよ!?」 顔を真っ赤にして抗議を上げる。 いつもなら電撃をまき散らしているのだが、上条の右手で掴まれていて静電気一つ起こせない。 抗議を受けた上条は照れて頬をかいていた。「あ、いや、こうすれば魚も逃げないんじゃないかなぁと……」 ついに恥ずかしくなって上条は美琴から顔をそむけ「ああ、あの魚って美味いのかな!?」などと水族館にあるまじき感想を言っていた。 かくいう美琴は初めて見る上条のその態度に「あ、あれ? もしかしてコイツ、結構可愛い?」と、男が言われても余り嬉しくない評価を彼に付けていた。 知らない一面を知れた事がなんだか嬉しくて、思わず笑った。「な、なんだよ……。そんなに変な事言ったか……?」「ううん、そうじゃないわよ。あ、でも、変な感想は言ったかな?」「言ってたかなぁ……」 自分から手を繋いできておいてまだ恥ずかしいのか、上条はまだ美琴の顔を直視しない。 でも、それは自分も同じなので何も言わない。「……ちょっとずつ慣れていけばいいよね?……」「ん? なんか言ったか?」「なーんでーもないっ! さぁ楽しむわよー!」 上条の手を握り、美琴は彼はあっちへこっちへ連れ回した。 途中、サメを集めた水槽では目の前までサメが口を開けて迫って来たり、水中トンネルを通ってペンギンの泳いでいる姿を見たり、クリオネの食事シーンを見て二人でショックを受けたり。 手を握ると握り返してくれたり。「なぁー、御坂ー。上条さんお腹空きましたー……」「あ、もう2時過ぎてるのね。そりゃお腹も減るわよね」 上条の右手ごと持ち上げて左手で時計を確認する。 上条はそれを気にした素振りを一切見せず、「どっか食うとこねぇかなぁ」と辺りを見回していた。 二人が今いるのはルートの丁度中間の場所だった。そこは2階の空中通路なのだが結構通路が大きく、道の終わりには売店があった。 売店の近くには階段もあり、そこから1階に下りられるようだ。「おっ、なぁなぁ御坂。あそこ座れそうだぞ。近くに売店もあるし、なんか食えんじゃないか?」「きゃっ!? もぅ! 急に引っ張らないでよ!」 文句を言いながら美琴はされるがまま上条に引っ張られる。 上条が言っていた場所に来てみると、テーブル席がたくさんあり、また同時に人もたくさん座っていた。弁当などを食べている人が多かったので、どうやらここがお食事処なんだろう。「うぇ~、人いっぱいだなぁ……」「あっ、あそこ空いてる」「でかした御坂!」「だから! 急に引っ張らないでって言ってるでしょ!」 美琴をひっぱり席を確保した上条は持っていたお茶を置いてすぐに立ち上がる。 美琴が不思議そうな視線を返すと、上条は売店を指さした。中は食堂にもなっているようで、中から何人か食事を持ってきてこっちに座って食べていた。「なんか買ってくるよ。御坂は何食う?」「あ、えっと……」 問われて美琴はなんかバックを抱え、中の何かを掴みながらモジモジとしていた。 それを見て「パンフレットって食堂のメニューも書いてあんのか?」と思い、自分もパンフを取り出して見てみる。 しかしパンフの何処にもそんな事を書いてなかった。じゃあ何でモジモジしてるんだろうともう一度美琴を見る。「そ、その……」「ん? どした?」「……お、おべんと、作ってきたから、その……」「…………………へ?」 上条は思わず自分の耳を疑った。 今、美琴の口からハッピーイベントな言葉を聞いた気がする。 これはアレだ。うん。男が夢に見る女の子の手作り弁当フラグだ。「おべんと、食べる……?」「もちろんっ!!」 もの凄く恥ずかしそうに弁当箱を取り出した美琴の手を、さらに上条の手が掴む。 上条の顔がよっぽど嬉しそうだったのか、美琴は「えへへ」と笑いながら大きめの弁当箱を取り出す。 蓋を開けると、鶏肉の唐揚げや卵焼きといったお弁当の代表的メニューが並んでいた。その段の下には色とりどりのおにぎり。 なぜだろう。上条さん、涙が出てくるよ。「ちょ、ちょっと!? 何で泣いてるのよ!?」「桃源郷ってここにあったんだなぁって……」「なによそれ……」「それでですね、これ食べてもいいんですよね……!?」「もちろん。残したら超電磁砲お見舞いしちゃうわよ?」「残す訳無いじゃないですか! いただきます!」「召し上がれ」 男の子って皆こんな感じなのかな。笑いながらそう思う。 右手でおかずを持った箸を次々口に持って行って、左手ではすごい勢いでおにぎりを飲み込んでいく。 喉が詰まったら持っていたウーロン茶で流し込んで、そしてまたすごい勢いで平らげていく。 なんというか、こうまで夢中に食べてくれるとすっごいうれしい。 見てるだけで満たされていく。『ワーーーーーーーーー!!』「な、なんだぁ?」「……もしかして」 いきなりそんな歓声が下から聞こえてきて、上条もその手を一旦止める。 一方美琴は何か思い当たるのがあったのか、バックからパンフを取り出す。「あ、やっぱり」「なんだ?」「下でアシカショーやってるみたい。丁度始まったところかな?」 パンフを上条に渡し、腕時計を見せながら説明をする。 受け取り見ると、2時半にアシカショーと書いてあった。 そういえば、水族館に入ってすぐ自分で言っていた気がする。今までが楽しくてすっかり忘れていた。「これを見る限り一日一回だけみたいね」「そうみたいだなー。でもま、いいんじゃね? 次見に来ればさ」「へ?」 言うだけ言って上条は再び弁当へ戦を仕掛ける。 言われた方は呆気に取られ、ただ上条を見ていた。(い、今、さりげなく誘われた……? そ、それって『また二人で来ようぜ!』って事でいいのかしら……?) きっと上条の事だから大して考えないで言ったんだろう。大して考えていないという事は、自然と出てきた言葉だという事。 それがもし、自分が思った通りの意味だったとしたら、「……ふにゃぁ」 顔を赤くして「ほぅ」と両手で頬を挟み込む。 上条は上条でまた気絶するのかと焦ったが、それも杞憂に終わりまた弁当を平らげていく。 そういえば初めてかもしれない。「ふにゃぁ」状態で気絶しなかったのは。「食った食ったぁ! ごちそうさまでした!」 行儀は悪いが腹を叩いて満腹を体全体で表す上条。 結局、勢いのまま食べていたら9割ほど食ったかもしれない。 や、だってすっごい美味いし、なんたってコイツの手作りだし……、等と誰も聞いてないのに上条は自分へといい訳を始めた。 上条の声で美琴も現実に戻ってきて、すっかり空っぽになった弁当箱を見て破顔した。「お粗末さまでした。あのさ、いまさら何だけど、……美味しかった?」「すっげぇ美味かったぞ! 毎日食いたいくらいだ」「ま、まい……!?」 それはもしかしてそういう意味!? どういう意味かは知らないが、どうにも今日の美琴さんはトリップしやすいようです。 上条も少し遅れて、自分が言った言葉がどんな意味か気付き、こちらも照れた表情で頭をかいた。「あー! それより!」 この空気に耐えられなくなり、空気を変えようと上条が大きな声を出した。 周りに居た人達の視線が少し集まるが、上条はもちろんのこと美琴も気付いていない。 空いた弁当箱を片付ける美琴に、これからの予定を尋ねる。「この後どうする? イルカショー見てくか?」「んー、ちょっと見てみたいかも……」「じゃさ、ちょっとそこの露天見てこうぜ。そこから下りれるみたいだしさ」 近くの売店と階段を見ながら言う。 確かに、今からルート後半を見ていたら間に合わなさそうだ。「うん、私はいいわよ」「おし、じゃあれっつごー」 手を繋ぎながら売店の中へ入ると、中からはわからなかったが結構な数のグッズが売られていた。 美琴が真っ先に向かったのはぬいぐるみコーナー。イルカやペンギンなど水族館の人気者の勢ぞろいだ。 その傍には海のパズルや、ここの水族館の人気者を集めたパズルがあった。「あ、これかわいい!」 美琴が手に取ったのはペンギンの被り物。帽子の生地ではなく、ぬいぐるみと同じのようだ。それを見て、あったかそうだなと上条は適当に感想を抱いていた。 そこで視線を別の物へ向けた上条は美琴が怪しく笑ったのには気付かなかった。 美琴の隣でお菓子コーナーを物色していた上条は小萌先生たちに感謝もこめてお土産を買おうとしたのだが、これが高い。「意外と高いな……」 お土産品は往々にして高いという知識はあるが、いざ目の前にすると購買意欲が減退していく。 水族館にいる魚たちを模しただけのクッキーなのに妙に高い。見た目は形が違うだけの普通のクッキーなのに。 背後から忍び寄る影に気付かず、上条は買うかどうか迷っていた。「(うーん……、1番安いので850円。でもこれじゃ数が足りなさそうだ)」「えいっ!」「おぉ!?」「あ、意外と可愛いかも……」 背後から忍び寄った美琴が上条に被せた物はマンボウの帽子。 マンボウは何となく鈍いイメージがあるからピッタリだと思ったのだが、これが思った以上によく似合う。 マンボウの下には「なんだこりゃ……」みたいな顔があった。「アンタの頭がジョブチェンジしたわよ」「ウニから、とか言ったら上条さんも怒るからな?」「じゃあ…………、ハリセンボン?」「言うと思ったよチクショウ!!」 ブツブツ言いながらハリセンボンはマンボウを元の場所へ戻す。 戻して気が付いたのだが、ここの水族館は中々にユニークな物を作るようだ。普通、この手の物は誰からも人気がある物を作ると思うのだが、まさかコレがあるとは。 口を押さえ、体を揺らして笑っている美琴に気付かれないようにひっそりと取る。「あ、次はコレ被ってみてわっ!?」「御坂にはコレが似合うんじゃないか?」 今度はひっそりと近寄られた美琴が何かを被せられる。 しかも何かを確かめる間に目の前では上条が携帯で写真を撮っていた。笑いを必死に堪えているのが凄く気になった。 近くに鏡があったのでそれを見ると、美琴の理性が少し飛んだ。「やっぱ電気ウナギがよく似合うよ、うん。同じ電気だしな」 引くつく頬を必死に抑え、笑いを頑張って堪えながら神妙に頷く上条に美琴は静かに向き直った。 大して上条は安心しきっていた。今は右手で美琴の左手を掴んでいるし、電撃は絶対来ない。 だから、美琴が足を振りかぶっているのにも気付かない。 青天の如く爽やかな笑みを浮かべたまま、美琴は一蹴した。そのまんま文字通り。「セイッ!」「ッ!?」 美琴のつま先が上条の弁慶さんをジャストミート。「~~~~~~~~~~~~~~~!!!???」 蹴られるとただでさえ痛い脛に、不意打ちと自販機で鍛えられた美琴の蹴りが入った。 想像を絶する痛みに上条は壁に突っ伏し、涙目でプルプルと言葉なく震えていた。 声は聞こえないが口元は動いていた。声が出ていれば「こっ、これ、はっ……! 余りにご無、体ッ……!!」っていう涙交じりの声が聞こえたはず。「ふんっ!」 ご立腹のお嬢様は悶え苦しんでいる上条を引きずって、商品物色を続けた。 それからしばらく経ち、上条の脛の痛みも引き、売店から出る頃には丁度いい時間になっていた。 心なしか、足がまだ痛い気がする。「お、ここいいんじゃないか?」 イルカショーのステージの観客席は徐々に埋まり始めていた。 上条が取った席は丁度ど真ん中だ。一番の前の席でステージの真正面。空中にいるイルカはもちろん、水中にいるイルカも堪能できそうだ。「ねぇねぇ、あそこでコート配ってるみたい」「じゃあちょっと貰ってるから待っててくれ」「うん」 水しぶき対策だろう。それに、何故かはわからないけど上条には必須な気が美琴にはしていた。もちろん上条自身も。 二人分のコートを手に持って上条は席に戻ってきた。始まるまで時間が少しあるのでまだ着なくてもいいだろう。「俺、イルカって初めて見るんだよなーっ」「そうなの? って、そう言えばアンタって記憶喪失だったわね」「でも知識はあるっていう、何とも不思議な状態だから余計に楽しみなんだよ」 美琴は上条の記憶喪失をどうにかしたいと思っているが、その当人が表面上だけかもしれないが、あまり気にした素振りを見せないので、周りがとやかく言う事ではないんだろうと。何か言ってきたら動けばいいだろうと思っていた。「あれ? って事は、今までのも全部初めて?」「おうっ」「なんだ、じゃあもうちょっとちゃんと説明しながら見ればよかったわね」「今日は楽しむ事第一! それはまた今度教えてくれよ、美琴センセー」「任せなさい! ……って、今美こ」「おっ、始まるみたいだぞ!」「……むぅ……」 なんだか邪魔された気がする。 ちょっとだけ不機嫌になりながらコートを身に着ける。 現れた3匹のイルカは、一緒に出てきたトレーナーの人の合図で空高く飛んだり、口先にボールを乗せながら泳いだり、高い位置のわっかを潜ったり、トレーナーが足裏をイルカに押してもらって一緒にジャンプと、多種多様な芸を披露していった。 その芸の一つ一つに上条は子供っぽく歓声を上げる。その顔と声に美琴はイルカよりもこっちが気になった。「やっぱり、コイツって結構可愛い」そう認識を改めで確認しながら。『じゃあ観客の皆さんにサヨナラのご挨拶ー!』 とトレーナーの人が言うと、3匹のイルカは尻尾で水面を叩いたり飛び跳ねたりとこちらに水しぶきを放ってきた。 もちろん、間には高いガラスの壁があるのだが、それでもやっぱり迫力はある。観客がキャーキャーと騒ぐ中、上条もそれに乗っかる。のもすぐに終わった。「…………お?」 1匹のイルカが放った特大の水しぶき、その一部がガラスの壁を越えた。 なんだかその水がスローモーションに見えて、上条はやけに冷静に着弾地点を予測した。 その結果、バシャァ! と上条はぬれ鼠になった。ピンポイントで。左右前後は軽く濡れただけだった。 コートがあったのは不幸中の幸いだった。のだが、なんだか自分一人だけと言うのが釈然としない。「不幸だ…………」「あはは……。ド、ドンマイ……?」―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 水族館を十分に堪能し、帰途につきちょっと休憩にと公園に立ち寄った頃には、時間はもう6時付近になり夜と夕方のその中間点のような空をしていた。 初夏とは言え、日が沈み風が出てくると少し肌寒く感じる。 普段は多大に迷惑を被っている学園都市の自販機も、こう言う時は少しだけ嬉しくなる。こんな初夏でも暖かい飲み物もしっかり売っているのだから。「なんか買ってくるからちょっと待っててくれ。なに飲みたい?」「うーんと、ココアが飲みたいな。無かったら、なんでもいいや」「おっけー」 飲み物を買いに行った上条の背中を見ながらベンチに座り美琴は一つ悩む。 バックの中にもう一つ食べ物が入っているのだが、いつ出そう。昼食の時はタイミングを逃してしまったし、いきなり「甘いもの食べたくない?」と言うのもなんかおかしい気がする。「どうしよう……」 折角今日の為に作ってきたのに。今日食べてもらわないと意味がないのに。 バックを抱え濃紺になった空を仰ぐ。 空は雲ひとつなかった。だからだろう。濃紺一色しかない空が寂しく感じられた。星も何も見えないただの空。 首を上げているのも疲れたので下へ戻すとウニヘッドが丁度戻ってきた。「お待たせー! ほい、ココア」「ありがと」 ペットボトルのふたを開け、一口飲む。ココアの香りと暖かさが体に沁み渡っていく。 隣に腰を降ろした上条は見た事のない缶コーヒーを開け、勢いよく飲んでいた。缶の色が真っ黒だからきっとブラックだろう。 ただ、でっかい文字で特濃と書かれていたのが気になった。「にっがー!?」 叫んだ上条の口からコーヒーが少し噴き出た。 ちょっとびっくりした美琴の視線の先で上条はせき込んでいた。よっぽど苦かったらしく、なんか唸ってる。 美琴は閃いた。これはラッキーだ。「あ、甘いものあるけど、食べる?」「食う食う! いくらでも食う!」「ちょっと待ってね」「早くー! にっがー!!」 ゴソゴソとバックの中ら取り出すのは掌よりも一回り大きいサイズの、底が少し深い箱だった。 上条に手渡すと、少し乱暴な手つきで蓋を開け中に入っている物を無造作に放り込んでいく。 落ち着いた上条は、何でか縁側でお茶を飲んでいるお婆ちゃんみたいな表情で箱の中の物をゆっくり味わう様に食べていた。「なんというか、こう、沁みてくなぁ、これ……。ああ、甘うめぇ……」その甘うまい物を一つを手に持ち、口に運びながら上条は美琴に聞いた。「ところで、コレって何? すっげぇ美味いんだけど」「オレンジピールってやつにチョコを塗ったの」「へー」 オレンジなどの柑橘系の皮を使い作る、ちょっと苦みのある大人のお菓子だ。 今回はそれを甘めに作ったが今の上条には見事にジャストなようで、食べるその手はノンストップだ。次々と胃に収めていく。 それ見ながら美琴はホッとした。もし口に合わなかったらどうしようかと心配だったのだ。あと、全部食べてもらわないと困ったりする。「なぁなぁ、これ全部食べていいのか?」「い、いいわよ!」「お前、なんか顔赤いぞ?」「な、なんでもないから!」 ちょっと気になるが本人がこう言っているんだから、言い過ぎるとかえって機嫌を悪くさせると思って上条はオレンジピール退治に集中した。 これは一度食べると止まらない。さっきとんでもなく苦い物を食べたからか、すっごく甘く感じる。 あっという間に箱の中身を空っぽにする。「ん? なんだ、これ」「っ!?」 空っぽの箱の底にカードを発見する。 ドッキーン! と反応する美琴の横で上条はカードを開くと、可愛らしい女の子の字でこう書かれていた。『話しがあるので私の目を見ててください』 ここに書かれている『私』は隣にいる美琴の事でいいんだろうか。いや、絶対そうだろう。美琴が取り出した箱、その底に入っていたのだから。 でも、話ってなんだろう。こう改まって手紙で言われると変に緊張する。 書かれている通り美琴の方へ振り向くと、顔を真っ赤にした彼女が一直線にこちらを見つめていた、というよりも力が入り過ぎていて泣き出しそうにも睨んでいるようにも見える。(な、なんだぁ?) いきなりそんな顔を見たもんだから上条もびっくりする。 夕闇から闇へと変わっていく中に見える、美琴の真っ赤な顔。スカートをくしゃにくしゃに握っている両の手。緊張で固まっている彼女の体。一言がなかなか言えず、何度も開く小さい口。 今日一日美琴と一緒に居た上条は一つ思う。(……俺、勘違いしてもいいのか……?) 自分が鈍いという自覚はある。 その鈍い自分がそう思うほど、美琴からは一つの感情がむき出しだった。 どのくらい見つめ合っていただろうか。 周りはすっかり暗くなり、公園の外からは車の音が絶え間なく聞こえる。 外は暗い。でも相手の姿だけははっきり見える。空気は冷えてきた。でも心には心地よい暖かさ。(いっ、言わなきゃ……!) 何度も思うが美琴は言えずにいた。やっぱり怖いと思う。 もし。万が一。やっぱり言うのをやめた方がいいんじゃないか。言わなければこの楽しい距離は続く。ダメだったら、きっと自分は二度と笑えない。 それでも同時に『でも』という希望を抱いていた。 折角持った勇気をダメにしちゃいけない。 美琴は口を開いた。「ね、ねぇ!」「ストップ!」「え……?」 手を出され止められる。 それだけで美琴の顔から表情が消える。 けれど目は開かれ、眦には涙がたまる。「お、おい!? 違う違う! お前が泣く事無いんだって!」 雫となって落ちる前に上条が慌ててそう言った。 不慣れな手で美琴の涙をぬぐい、優しい右手で彼女の頭を撫でる。 もう何がなんだかわからない美琴は、キョトンと上条の顔を見つめていた。 見つめられたからか、もしくは別の理由があるのか、恥ずかしそうな照れたような表情で頬をかいていた。「こ、こういうのってさ、俺から言うもん……だろ?」「え……?」 小さく息を吐いてから、上条はたった一言だけ言った。 結局、上条は目の前の女の子を泣かせてしまった。 暗い帰り道、一人思い出すのはあの日の夜の事。 右手一本で最強に挑んで入院した日。 ベッドで眠る少年は包帯ばかりでとっても痛々しかった。見ていられなかった。凄く、悲しかった。 でも、笑顔で寝言で自分の名前を呼ばれた時。笑ってと言ってくれた時。 目の前で寝ている少年がたまらなく欲しいと思った。 あの時はこの感情を知らなかったから、そんな恥ずかしい事を思ったんだと思う。 今ならその気持ちははっきり言える。「今のこの気持ちの事、なんだよね。……ね、当麻」 あの時と同じ。でもまだ暖かい感触を唇に感じながら一人真っ暗な空に呟く。 不思議と、空は寂しく見えなかった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3482.html
小ネタ いわんでよろしい 上条は呆れていた。なんに?そりゃもちろん、「あ、あ、アン、アンタ、にゃんか…………」目の前の彼女、美琴にである。 ここは上条宅。ベッドに腰かける上条と、ベッドの上で女の子座りし、枕を抱き締めながら上条を睨む美琴。顔はトマトより赤く、目は潤んでいる。こうなった理由は1時間ほど前に遡る。同居人が外出中なのをいいことに、奥様気分を満喫する美琴。鼻唄なんて歌いながら食器を洗っていた。ニコニコとスポンジを動かす彼女に声をかける人物がひとり。「美琴…………」愛しの彼氏、上条当麻である。「なに♪」笑顔のまま振り向いた美琴は固まった。やさしく微笑む彼。まるで、そのまま薄れゆく霧のような美しさだった。たまらず尋ねる。「どう……したの?」上条が少し、言葉にするのを逡巡したのが美琴にも受け取れた。しかし、彼の口は動く。「今まで、ありがとな」美琴は目を見開く。今【まで】?美琴が言葉の意味を模索するなか、上条はリビングに戻りながら言葉を紡ぐ。「すまん、さっき電話がかかってきてさ、急用が入っちまった。出かけてくる、この埋め合わせはまた今度するから」慌てて手をタオルで拭き、リビングに駆け出す美琴。彼に何が起こっている?冷や汗が止まらない。「待って!! 私も一緒に行かせて!!」「全部嘘だピョン」ドンビリビリピカドガバッシャーンぱっきーん美琴がリビングに駆け入ると、ケロヨンの仮面を付けた不審者が、シェーのポーズをとっていた。電撃を放つがヤツには効かない。「……た、たまに、彼女の愛情が怖い」仮面をはずしながら戯れ言をほざくツンツン頭。いまの電撃は怒りの塊だコノヤロウ。「残念ながら今日はエイプリルフール。どんな愛情も受け止める上条さんも、今ので怒られるいわれはないです「うがーーー」ぬおっ!!!」電撃が効かないので白兵戦を挑むミコっちゃん。飛びかかり上条をベッドに押し倒す。首を絞めたが腕を解かれた。ほっぺを引っ張ったが腕をとられた。押し倒されてムギュムギュされて、ナデナデされてクンクンされて、こちょこちょされてもみもみされて、ムチュムチュされてふにゃーした。そんなこんながあっての現在。20分の気絶から生還した美琴。彼女はどうも彼氏に復讐のウソをつくらしい。が、「あ、アン、アンタ、にゃ、にゃんか…………ダ、だっ……だい………………あ、アンタ……にゃ、にゃんか……だい………………あ、アン……」彼女は壊れたレコードの物真似を体得したらしい。暫く楽しく拝見させてもらった。しかし、すぐに上条は狼狽える。彼女の目が決壊したのだ。「お、おい!! どうしたんだよ!!?」「ぐすっ、だって!! ぐしゅっ、だってぇ~」上条は美琴を抱き締めた。すると、ボソボソと美琴が言葉を口にする。余りにも小さな声だった。ウソでも、言いたくない…………その声を聞いた上条は、抱き締める力をいっそう強くした。少し美琴が苦しそうにしたが、がまんできない。「美琴、言わなくていいって」「ふぇ? あっ、むぐっ…………」さらに、ひたすらに口づけする。ついばみ、なめ回す。言葉にする必要などないと、もうわかっていると伝えるために。 その後、ミコっちゃんは、上条さんに押し倒されてムギュムギュされて、こつこつされてつんつんされて、ナデナデされてクンクンされて、こちょこちょされてもみもみされて、チュッチュッされてペロペロされて、もぐもぐされてほむほむされて、ムチュムチュされてヌギヌギされて、くちゅくちゅされてあんあ略
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1610.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/起きないあいつ 御坂美琴は、上条当麻の胸に飛び込み、ありとあらゆる言葉と涙を,、感情のまま叩きつけた。 「………」 上条は何も言わず、左手で美琴をきつく抱き締め、右手で彼女の頭に触れたまま、黙ってその衝撃を受け続けていた。 美琴は、上条に抱きついた時から漏電を起こし、バチバチと放電していたのだが、上条の右手のおかげで周りには出ていない。 「美琴…」 もはや美琴が何を言っているのか、何と言っているのかは問題ではなかった。 彼女の叩きつけるような感情の波が、上条の首を絞めるように巻きついて来る。 ―このまま縊り殺されても文句は言えねぇよな。 ただ彼女の想いだけを感じ、受け止めていることだけが、その時上条が出来るただ一つのことだった。 どれ程時間がたったのか、やがて上条は口を開いた。 「美琴…、ごめんな…」 泣いている美琴の肩がビクリとした。 「それと…ありがとう…」 その一言で、美琴の嗚咽が止まった。 「…えっく…、えっえっ…く…、…えっく…、…ふぅ…」 美琴はまだ俯いたままではあるが、肩の震えも少しずつ治まっているようだ。 やがて… 「当…麻…の…」 美琴はそれだけ言うと、上条の顔を見た。 美琴の泣き顔が上条の胸に突き刺さる。かつて、守ると約束した少女が流す涙が、上条の心を痛めつける。 上条を見つめる美琴の目がキッと強くなった瞬間… 「馬鹿ッ!」 パシィ!と乾いた音が響く。 上条は左頬に熱い痛みを感じ、思わず美琴を抱いていた手を離した。 上条は左手をその熱さを感じるかのように、頬に当て、真剣な面持ちで美琴の顔を見た。 「何で…、何であの時…、私の手を振り払ったのよ…」 ―わかっていたさ。俺だって、本当は一緒に逃げたかったよ 「アンタ、何でいつも一人で抱え込もうとするのよ…」 ―でもそれが、俺が知っているたった一つの生き方 「いつもいつもボロボロになって… アンタは…それで満足かもしれない… でもね…」 美琴の言葉が上条の首を更に締め付ける。 「そんなアンタを見ている私はどうしたらいいのよ…」 ―……… 「いやよ… 私、アンタが傷付いて、苦しんで、それでも… 笑っている顔なんて見たくないのよ!」 「美琴…」 「私はアンタに救われた。絶望の中から引っ張りあげてくれた。 そしてアンタに居場所を教えてもらったの。 生きててもいいって言われたの。 今のアンタによ! 昔のアンタじゃない。記憶をなくした後の上条当麻によ! 私はそんなアンタが好き。今の上条当麻が大好きなの… 当麻の笑った顔が大好きなの… ううん、そうじゃない。記憶なんて関係ない。 アンタがいつ記憶を無くしたかはっきりとは知らない。 でも多分、私は記憶をなくす前のアンタを知ってる。 だから…今も昔も…上条当麻のことが大好きなの。 私はアンタの知らない上条当麻を知ってるのよ。 この嘘つき!偽善者! わかってるわよ…。 アンタがどうして、どこで、誰と戦ってるかってことぐらい…。 今の私じゃ、アンタの力になれないことぐらいわかってる。 でもアンタの傍にいて…話を聞いてあげることなら…私にも出来るんだから… なのに…どうして…いつもアンタはそうやって… いつも本当の気持ちを隠し続けるのよ! 何もかも全部、ぶちまけて見なさいよ! 泥くそだろうがなんだろうが、アンタの汚いものも、何もかも全部受け止めてやるから!」 美琴の言葉が、上条の壁に突き刺さる。こじ開ける。叩き潰す。その強固な扉を。 美琴は再び涙を流しながら、上条の目を見つめ続けた。 「だから逃げるな!誤魔化すな!私の目を見なさいよ!」 御坂美琴が、上条当麻の奥底にある『何か』を叩き壊した瞬間だった。 ―もう…だめだ… ―怖い… ―いやだ… ―見るな…そんな目で… ―もうだめだ… ―苦しい… ―やめろおおおおお… ―いやだあああああ… 上条当麻の胃の底から、何かこみ上げてくるものがある。 胸がムカムカする。吐きそうだ。 頭の中が真っ白になる。 そして扉が開く。 「なんでそんなこと言うんだよ…」 上条が搾り出すように口にした言葉に、美琴は一瞬立ちすくんだ。 「わかんねぇんだよ!俺にだって!」 上条の両目から涙がこぼれだした。 「俺だって…。俺だって…言いたいけど… ―なんて言ったらいいかわかんねぇんだよ!」 奔流のように流れ出したものに、上条は翻弄される。 膝を折り、泣き崩れた上条を、美琴は何も言わず優しく抱き締めた。 上条はただ泣くしかなかった。美琴の胸に抱かれながら。 何も言葉にならず、ただ声にならない声を上げながら。 さながら聖母マリアに抱かれた赤子のようでもあった。 やがて上条は少しずつ、美琴に話をはじめた。 自分の記憶をなくした日からのことを。 流れる涙を止めようともせず。 美琴は何も言わず、同じように涙を流しながら、それでいてやさしく、微笑みをうかべて上条の話を聞いていた。 「ありがとう当麻。話してくれて。 本当につらかったんだよね。 ずっと言いたかったんだよね」 「ああ…、やっと…言えた…気がする。たぶん…」 「今は全てじゃなくてもいいのよ。また言いたくなった時に言えばいいから。 私なら、いつでも聞いてあげるし、アンタの全てをいつでも受け止めてあげる。 言えない時は、また今日みたいに手伝ってあげるから。 でも当麻。今ほんとにすっきりした…いい顔…してるわ… 私しか知らない当麻の、本当の顔…よね」 「美琴…ありがと…。 でさ…俺…、もう一つ、謝らなければならないことがあるんだ…」 「知ってる。約束のこと、でしょ…」 「―知ってたのか…お前」 「『御坂美琴とその周りの世界を守る』だったよね」 「…ごめん」 「そんな約束、捨てちゃえば?」 「えっ」 「アンタが勝手に他人とした約束が、私を傷付けたらどうするの?」 ―! 「そんなの勝手じゃない。 私の世界は私のものよ。 アンタのものでもソイツのものでもないわ。 そんな勝手にされた約束が、本当に私と私の周りの世界を守れるって思うの?」 「しかし…」 「しかしもくそも無いわよ…」 美琴は笑いながら言った。 「残酷なようだけど、私の世界は、ソイツとは何の関係も無いわ。 思ってくれる気持ちはありがたいけど、自分勝手な想いの押し付けは、私にとっては迷惑なだけ。 私の世界なんて、一体どれだけ知ってるっていうのよ、ソイツが。 ならアンタとじゃなくて、直接私とするべきじゃない。 勝手に人の世界を決めてくれるなってのよ」 「美琴…」 「だったらアンタが私としなさい。ソイツとじゃなくて。 私との約束は、厳しいわよ。 私の世界は、私の大好きな上条当麻が中心にいるの。 上条当麻が今のような笑顔で、私の前にいてくれることが、今の私の世界なの。 その世界を、本当にアンタ、守れる?」 「ああ、守るとも。必ず…」 パシン! 「嘘つき!」 美琴の手が再び上条の左頬に飛んだ。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/起きないあいつ
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/698.html
一方通行「ダイエットォ?」 ※ほのぼの。台本形式。設定は維持 打ち止め「うん、今ミサカたちの間でいかにキレイに痩せるか競うのがはやってる ってミサカはミサカは説明してみる」 一方通行「くっだらねェこと流行らせてンじゃねェよ」 打ち止め「うー、もともとガリガリなアナタにはこの重要性がわからないみたい ってミサカはミサカは膨れてみる」 一方通行「ガキにゃ必要ねェだろ」 打ち止め「違うもん! 魅力的な女性の第一条件は痩せている事だって知ってるもん! ってミサカはミサカは駄々っ子っぽく手足を振り回してみる」 一方通行「つゥか誰だよそんな偽情報流したの」 打ち止め「リアルゲコ太先生だよってミサカはミサカは正直に答えてみる」 一方通行(あの医者かァ……やっぱいっぺンシメとかねェとな) 打ち止め「というわけで今日のお昼ご飯はコレでおしまい! ってミサカはミサカはアナタのお皿にピーマンとにんじんを移してみる」 一方通行「あァ!? 好きなモンだけ食っててダイエットになるかっつゥんだよ!!」 打ち止め「偏食家のアナタに言われたくないってミサカははミサカは頬を膨らませてみる」 一方通行「ちゃんと食え」 打ち止め「ごめんねー! ミサカは午後はお姉様と約束があるから。ってミサカはミサカは病室を飛び出てみたり」 一方通行「オイィ!」 打ち止め「あなたはちゃんと病室でおとなしく寝てるんだよーってミサカはミサカはお姉さんぶってみるー」 一方通行「言いたいことだけ言ってどっか行くンじゃねェよ!」 一方通行(……ったく、あのガキは手間ばっかかけさせやがって)モグモグ 一方通行(まァ今日のところは超電磁砲と一緒なら問題ねェだろ)モグモグ 一方通行「ニンジン不味いな……ふァ……寝るかァ」 打ち止め「お姉様ー! ってミサカはミサカは待ち合わせ場所でケータイの画面を見ているお姉様に手を振ってみる」 美琴「あ、きたきた」 黒子「ごきげんよう」 打ち止め「あれ? 変態のお姉さんも一緒なんだねってミサカはミサカは確認してみる」 美琴「どうしてもついてくるて言って聞かなくってさ。いいかな?」 打ち止め「もちろんいいよ! ってミサカはミサカはばんざいしてみる」 黒子「……なんで貴女までわたくしを変態などと」 打ち止め「あの人がそう言ってたからだよってミサカはミサカは答えてみる」 黒子「あんの白もやしぃぃぃ」 美琴「はは、まあ間違いじゃないけどね」 黒子「お、お姉様まで! 黒子泣いてしまいますわよ ……でもやっぱりSっ気のあるお姉様に罵倒されるのもなかなかよろしいかと」 美琴「はいはい」 打ち止め「やっぱり本格的に変態なんだねってミサカはミサカは若干後ずさってみる」 美琴「じゃ、いこっか。 アイツと一緒じゃ学び舎の園のケーキなんて食べる機会ないもんね」 黒子「雑誌にも紹介された有名店ですの。ってこれは受け売りですけれども」 打ち止め「う……ケーキ、なの? ってミサカはミサカは危機感を感じてみる」 美琴「あれ、もしかして甘いもの苦手だった?」 打ち止め「すごく大好きだよってミサカはミサカは……」 打ち止め(大好きだから困ってるってミサカはミサカは内なる声でつぶやいてみる……) 美琴「すみませーん、トリプルベリーとオレンジジュースください」 黒子「わたくしはチーズタルトと紅茶を所望いたしますわ」 打ち止め(うう、どれもおいしそうだけどできるだけカロリーの低そうなのは……) 打ち止め「低カロリーシフォンケーキにする、ってミサカはミサカは断腸の思いで選択してみる」 美琴「それ甘さ控えめのやつだけど、やっぱり甘いの苦手だった?」 打ち止め「ううん! そんなことないよってミサカはミサカは否定してみる!!」 黒子「ケーキセットですのでお飲み物もこちらから選べますの」 打ち止め「うう、コーヒー、ブラックで」 美琴「え、ブラック?」 黒子「コーヒーが飲みたいのならカフェオレもございましてよ」 打ち止め「あの人に付き合ってるうちにコーヒーのおいしさに目覚めたんだよ ってミサカはミサカは宣言してみる」 美琴「ならいいけど……」 黒子「意外と感性が大人ですのね」 打ち止め「アナタと見た目はそんなに変わらないよってミサカはミサカは指摘してみる」 黒子「あら、その数歳の差を重要視する殿方も世の中にはいらっしゃるそうですわよ」 打ち止め「よくわかんない、ってミサカはミサカは悩んでみる」 美琴「黒子、あんまりこの子に変なこと吹き込むんじゃないわよ」 黒子「あら、ケーキが早速来ましたの」 美琴「んっ、きたきた~。ここのケーキ生クリームが最高なのよね」 打ち止め(お姉様のケーキおいしそう)ジー 美琴「ん? 打ち止め、一口食べる?」 美琴「あ、シフォンケーキちょっとちょうだいね」 打ち止め「う、うん」 美琴「どれどれ……んー、私にはちょっと甘みが足りなくてものたりないかなー」 黒子「お、お姉様、わたくしのチーズタルトにも是非お口をつけていただけませんでしょうかハァハァ」 打ち止め「確かに甘みが足りないかもね、ってミサカはミサカはブラックコーヒーを恐る恐る口元に持ってきてみる」 黒子「お、お姉様二人にスルーされましたの!!」 打ち止め(ブラックコーヒー、ホントはあの人が飲ませてくれないから初めてなんだけど)ゴクッ 打ち止め(うう、にがいよぅ) 美琴「……やっぱりコーヒー慣れてないんじゃない? せめて砂糖とミルク入れたら?」 打ち止め「砂糖なんてとんでもない! ミサカはミサカは絶対拒否!」 黒子「かたくなに拒否なさいますわね」 美琴「はい、お返しに一口あげるわ」 打ち止め「ううん、ミサカは自分の分でおなかいっぱいになると思うって ミサカはミサカは零れ落ちそうなよだれを隠してみる」 美琴「遠慮しないでいいのよ。ほら、あーん」 打ち止め「うう」フラフラ 美琴「あーん」 打ち止め「あ、あーん……」パク 打ち止め(たべちゃった!ってミサカはミサカは後悔してみるっ) 黒子「わたくしも小さいお姉様にあーんして差し上げますわぁぁぁ!! ほ、ほらぁ、チーズタルトですのよ。あ、あーん……ハァハァ」 打ち止め「う、さすがにちょっと怖いってミサカはミサカは顔をしかめてみる」 美琴「怖がらせてんじゃないわよ」パシッ 黒子「あああ、今日もお姉様の愛の鞭が黒子の身体を刺激する……」 打ち止め「くやしいけどおいしいようってミサカはミサカは口をもぐもぐさせてみる」 打ち止め(うう、でもコーヒーの苦さでケーキが甘く感じるのは救いかなあ)ムキュモキュ 美琴「やっぱりケーキに甘さが足りなかった?」 打ち止め「そ、そんなことないってミサカはミサカは」 黒子「遠慮してちゃあダメですのよ」 美琴「そうだ、私の半分あげるから、打ち止めの分も半分ちょうだいよ。そしたら二つの味を楽しめるでしょ?」 黒子「なら三等分にいたしましょう。わたくしの分も召し上がっていただければ幸いですわ」 打ち止め「うう、優しさが目にしみるけど……けど……」 美琴「あらあら、そんなに食べたかったの? なら早く言いなさいよね、まったく」 黒子「強情なところもお姉様そっくりでかわいらしいですわ。ぐふふ」 打ち止め「うう、おいしいよう。甘いよう」パクパク 美琴「あー、おいしかった」 黒子「なかなかのお味でしたわ」 打ち止め(結局全部食べちゃったようってミサカはミサカは後悔してみる) 美琴「ん? 打ち止めどうしたの? なんか不満そうな……」 黒子「わかりましたわ。食べたりないのでしょう?」 美琴「なーんだ。まあ育ち盛りだもんね。何ならもう一個頼もうか」 打ち止め「ち、ちが……」 美琴「てんいんさーん、本日のオススメケーキ3つ追加お願いしまーす」 打ち止め(お、お姉様がせっかく気を使ってくれてるのに、言えない、言えないってミサカはミサカは) 美琴「こうしてのんびりケーキ食べるのもしばらくできないわねー」 黒子「そうですわね」 打ち止め「え? なんで? ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」 黒子「そろそろ大覇星祭の準備がラストスパートですの。 まあわたくしは怪我しておりますから参加できるかはわかりませんけれども」 打ち止め「大覇星祭?」 美琴「ええ、学園都市の学校すべてを挙げて行われる体育祭よ。能力の使用も許可されてるからすっごく迫力あるわよ」 打ち止め「そういえば知識としては聞いたことあったなあってミサカはミサカはネットワークにアクセスしてみる」 黒子「ネットワーク?」 美琴「あ、あはははは、なんでもないわよなんでも」 打ち止め「なんだかすっごく面白そうだねってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」 美琴「よかったら病院抜け出して見に来なさいよ」 黒子「それはよろしいですわね。学園都市中がお祭り騒ぎですからどこへ行っても楽しめますわ」 打ち止め「なんだかわくわくしてきたってミサカはミサカはハイテンションになってみる!」 美琴「人が多いから迷子にならないようにするのよ」 打ち止め「そっかー、学園都市全体がお祭りなんだね……あれ?学生全員参加ってことはあの人も参加するのかな ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」 黒子「あの人って白もやしのことですの? 高校生くらいに見えますけれどもどちらの学校に通ってらっしゃるのでしょうか」 打ち止め「んー、よく知らないっていうかあの人学校通ってない気がする」 美琴「……でしょうね。アイツはまあなんていうかいろいろ特別だし」 黒子「?」 打ち止め「せっかくだからあの人といっしょにお祭りに行ってみようかなってミサカはミサカは心に決めてみる」 美琴「アイツがお祭りねえ。似合わない気もするけど一人よりは楽しいんじゃない?」 黒子「そうですわね。黒子もお姉様の雄姿をカメラに収めるのが今から楽しみで仕方ありませんわ」 美琴「……お願いだから寮で何度も何度も巻き戻しては再生するのはもうやめてよね」 黒子「く、黒子のひそかな趣味がお姉様にばれておりましたの!?」 打ち止め「これがストーカーってヤツなの? ってミサカはミサカはおぞましさを感じてみる」 美琴「ある意味ストーカーより有害かもねー」 黒子「そんなっ、笑顔でさらりとひどいことを言うなんて」 打ち止め「そっか、お祭りかあ……」ゴクゴク 打ち止め(うっ、苦い!!) キャッキャウフフ オネーサマー 美琴「あ、もうこんな時間じゃない」 黒子「あら。本当ですわ。わたくしもおちびさんも病院を抜け出してきておりますのに、 夕食の時間に間に合わなくなりますの」 打ち止め「ほんとだ! ってミサカはミサカは時の流れのはやさに驚いてみる」 美琴「じゃあ今日はこれで解散しよっか。二人ともこのまま病院に戻るんでしょ?」 打ち止め「うん、ってミサカはミサカは元気よく返事してみる」 黒子「わたくしは寮にいったん荷物を取りによりますわ。一人で帰れまして?」 打ち止め「任せて!ってミサカはミサカは胸を叩いてみる」 美琴「じゃ、そろそろ出ましょうか。今日は私がおごるわ」 打ち止め「ええ、悪いよってミサカはミサカは首から提げるタイプの小銭入れを取り出してみる」 美琴「いいから、ちょっとはお姉さんぶらせなさい」 アリガトウゴザイマシター 美琴「すっかり夕暮れねー」 黒子「おいしいものも食べましたし、今日はよい一日でしたの」 打ち止め「なんか店のドアをくぐった瞬間食べてしまったとう罪悪感にさいなまれてみたり」 一方通行「オイクソガキいつまでぶらぶらしてンだ。迷子ですかァ?オマエは」 美琴「」 黒子「」 打ち止め「あれ? 何でこんなところにいるの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」 美琴「そ、そそ、そうよ、ここは学舎の園よ!」 黒子「基本的に許可のない男性は入れませんの! どうやって入り込みましたの!?」 一方通行「これでもいろンなところにコネ持ってンだよ」 黒子「そうでしたの……てっきり女装でもして入り込んだのかと」 一方通行「あァン!? 不気味な想像してンじゃねェよ」 打ち止め「案外似合うかもってミサカはミサカは想像し……やっぱ無理」 美琴「あー、遅くなったのは謝るわ」 一方通行「ったく、オマエが一緒だから許可した俺が甘かったぜ。ホラ、帰るぞ」 打ち止め「おっと。それじゃあお姉様たちー、またねーってミサカはミサカはずりずりと引きずられながら別れの挨拶をしてみたり」 一方通行「オラ、前向いて歩け。転ぶぞクソガキ」 美琴「……」 黒子「……」 美琴「過保護ね」 黒子「ですの」 一方通行「オマエが帰ってこねェから夕食の時間ずれたンですけどォ」 打ち止め「文句を言いながらご飯食べないで待っててくれたあなたにミサカはミサカは感謝してみる」 打ち止め(いっぱい喋ったからおなか減ったな。でも……) 打ち止め(今日はケーキを2個も食べちゃった。こんなんじゃダイエットできない) 一方通行「ホラ、無駄口叩いてねェで食え」 打ち止め「う……食欲がないってミサカはミサカは訴えてみる」 一方通行「はァ!? 何言ってンだ。まさかまたダイエットとか言ってンじゃねェだろォな」 打ち止め「ち、ちがうよ。ちょっと今日……ケーキ食べ過ぎたからってミサカはミサカは言い訳してみる」 一方通行「……超電磁砲か。余計なことしやがって」 打ち止め「お姉様は悪くないよってミサカはミサカは慌てて否定してみる!!」グー 一方通行「……」 打ち止め「……」 一方通行「……オイィ、今の可愛らしィ音はなンの音だァ?」 打ち止め「なんのこと?ってミサカはミサカはとぼけてみる」 一方通行「どォ聞いても腹の虫だよなァ、腹減ってンじゃねェかクソガキイイィィ!!」 打ち止め「いやー、ほんとにおなかすいてないもん! ってミサカはミサカは戦略的撤退」ダダダダダ 一方通行「オイコラァ! どこ行く気だ!」 打ち止め「ミサカはもう寝るもん! ってミサカはミサカは夜更かしは美容の大敵って言ってみる!」バタン 一方通行「まだ8時にもなってねェぞクソガキ!!」 一方通行「……ふざけンじゃねェよ。どォすンだよこの二人分のメシ」 打ち止め(うーん、部屋に戻って布団にもぐりこんでみたはいいものの) 打ち止め(正直全然眠くないってミサカはミサカは昼間に飲んだコーヒーのことを思い出してみる)グー 打ち止め(おなか減ったし) 打ち止め(だめだめ! 魅力的なスリムボディを手に入れるためだもん) 打ち止め(上位個体として下位個体に負けられないってミサカはミサカは決心を固めてみる) 打ち止め(今日はケーキ食べ過ぎちゃったんだから自重しないと)グー 打ち止め「……」 打ち止め「やっぱ、おなかすいたなあってミサカはミサカは呟いてみる」 一方通行(チッ、あのクソガキ変なこと覚えやがって)モグモグ 一方通行(ダイエットとかガキが色気づいてンじゃねェよ)モグモグ 一方通行(ケーキは食えてメシは食えませンだァ? 馬鹿言ってンじゃねェよ)モグモグ 一方通行(超電磁砲も勝手に食いモン食わせてンじゃねェよ)モグモグ 一方通行(超電磁砲にクレーム入れとくかァ、って連絡先しらねェな)モグモグ 一方通行(今度会ったらビシッと言ってやンねェとなァ)モグモグ 一方通行「……」 一方通行「やっぱ、二人分は多いなァ」モグモグ 一方通行「オーイ、クソガキィ、朝メシくらいはちゃんと食えっつゥの」ドンドン シーン 一方通行「……」 一方通行(寝てンのかァ? まったくいつもは起こしに来る側だってェのによォ) 打ち止め「うう、カロリー計算したら昨日は食べすぎだったからその分朝食も抜くってミサカはミサカは篭城してみる」 一方通行「起きてンじゃねェか出て来いやコラァ!!」ドンッ シーン 一方通行「……だめか」 prrrrrrrr 一方通行「あ? この番号……誰からだ?」ピッ ??『あ、もしもし。一方通行?』 一方通行「は? 誰だ」 ??『私よ私。御坂美琴』 一方通行「はァァ!? なんでオマエが俺の番号知ってンだよ」 美琴『ちょっと調べたのよ』 一方通行「俺の個人情報に関してはそれなりに機密度が高いはずだが」 美琴『細かいことは気にしない気にしない』 一方通行「犯罪のにおいがするぜェ」 美琴『気のせいよ』 一方通行「……で、何の用だ。つまらねェことだったら切ンぞ」 美琴『今暇?』 一方通行「あァ!?」 美琴『ちょっと話があるんだけど病室行っていいかな。もう病院には着いてるんだけど』 一方通行「オマエが俺に顔つき合わせてなンの用があるってンだよ」 美琴『私だって別に会いたくなんてないわよ。でも、打ち止めのことなのよ』 一方通行「……」 美琴『授業抜け出してきてるんだからちょっとくらい時間作りなさいよ。どうせ暇なんでしょ』 一方通行「相変わらず失礼な女だな。まァ少しなら付き合ってやる」 美琴『ありがと。素直じゃないわねまったく。今から病室向かうから待ってなさいよ』ピッ 一方通行「切りやがった……ホントに勝手なヤツだな」 一方通行「……で、いったい何の用だ超電磁砲」 美琴「いきなりとげとげしいわね。まあアンタに馴れ馴れしくされても気持ち悪いだけなんだけど」 一方通行「ずいぶんな言い草だな。さっさと話し済ませて帰りやがれ」 美琴「ん、ちょっと昨日さあ、あの子……打ち止めの様子がおかしかったから」 一方通行「あァ?」 美琴「今日一緒にケーキ食べたんだけど」 一方通行「あァ。それを言い訳にしてあのガキ晩飯食ってねェよ」 美琴「ええ!? おっかしいなー、確かに閉店間際までしゃべってたけどケーキ食べたのはそんな遅い時間じゃなかったはず……」 一方通行「オマエのせいじゃねェ。なンか知らねェけど急にダイエットとか言い出しやがったンだよ」 美琴「あら。だからか」 一方通行「は?」 美琴「なんかコーヒーのブラック飲みだしたり甘くないケーキチョイスしてたのよ。 あの年頃の子にしてはおかしいでしょ?」 一方通行「オマエの前でもンなことやってたのかあの馬鹿は」 美琴「結局ケーキいっぱい食べさせちゃったし、悪いことしたかな」 一方通行「ンだよオマエダイエット肯定してンのか」 美琴「思春期の女の子なら誰でも通る道よ。アンタにはその辺の理解が足りないみたいね」 一方通行「わかるわけねェだろ。つゥか晩飯どころか朝メシも拒否して部屋からでてこねェンだぞ? 異常だろ」 美琴「あちゃー、断食か。身体によくないだけなのに」 一方通行「……オイ超電磁砲」 美琴「ん? なによいきなり真剣な顔して」 一方通行「オマエに頼むのはシャクだが他に頼れるヤツもいねェ。頼めそうなヤツはまだ様態が安定してねェしな」 美琴「は? 頼みごと? 私に?」 一方通行「……あのガキを説得してくれねェか」 美琴「え? なんでよ。アンタが話せばいいじゃない」 一方通行「俺が話せばどォしても喧嘩腰になっちまう。 オリジナルのオマエの話ならきちンと聞くだろうよ」 美琴「ええ、でも」 一方通行「俺は所詮実験を行っていた側の人間だからな。あのガキどもにとっちゃあ結局 美琴「別にあの子はアンタのこと嫌ってなんか……」 一方通行「頼む」 美琴「!」 美琴(あの一方通行が……格下相手に頭を下げた?) 一方通行「頼む」 美琴「……仕方ないわね。ちょっとアドバイスするだけよ。最終的に説得するのは、アンタの仕事だからね」 美琴(とは言ったものの) 美琴(どういう切り口ではなそっかな) 美琴(ダイエットしたいって気持ちはまあわからないでもないし) 美琴(無理に否定するのもどうかと思うのよね) 美琴(……ま、当たって砕けてみますか)コンコン 美琴「入るわよー」ガチャ 打ち止め「……お姉様? ってミサカはミサカは布団の隙間から様子を伺ってみる」 美琴「やっほー、元気だった?」 打ち止め「昨日あったばかりなんだけどってミサカはミサカは疑わしげなまなざしをおくってみる」 美琴「男子三日会わざれば刮目して見よ、ってね」 打ち止め「三日もたってないしミサカはそもそも男子でもないんだけどってミサカはミサカは反論してみる」 美琴「細かいことは置いといて。元気、なさそうじゃない」 打ち止め「そんなことないよう」 美琴「嘘ばっかり。それにしてもダイエットしてるんだって? また急にどうしたの」 打ち止め「妹達のあいだで流行ってるの。しかもどうやら痩せた個体がでてきたらしくってあせってるの ってミサカはミサカは正直に答えてみる」 美琴「ふうん。でも妹達とアンタの身体年齢って違うじゃない。競っても仕方がないと思うんだけど」 打ち止め「でもでも、上位個体としてのプライドがあるのってミサカはミサカは主張してみたり」 美琴「アンタ成長期なんだから、痩せる痩せない以前に食べないと出るとこ出ないわよ」 打ち止め「正直お姉様と下位個体を見る限りではこれからの成長にはあまり期待ができないって ミサカはミサカはお姉様をじろじろと見ながらため息をついてみる」 美琴「な、何いってんのよ! 私だってまだまだ成長期なんだからね!」 美琴「これでも……遺伝を考えれば……私にだって可能性は十分……」ブツブツ 打ち止め「お、お姉様? 何もそんなに気にしなくてもいいよってミサカはミサカは自分の発言を後悔してみる」 美琴「……はっ、そ、そうよね! 私ってば大器晩成型だもんね!」 打ち止め(なんか違うと思うけど黙っておこうってミサカはミサカは決心してみたり) 美琴「えーっと、そうそう、ダイエット、ね。そもそも何のためにダイエットをするのかしら」 打ち止め「魅力的な女性の条件は痩せてることだってミサカはミサカは知ってるもん」 美琴「なによその情報。いったいどこから仕入れてきたの」 打ち止め「え? 違うの? ってミサカはミサカはびっくりしてみる」 美琴「まあ一概には言えないけど、人それぞれってところかしらね」 打ち止め「むー、でもモデルさんとかはみんな細いよってミサカはミサカはファッション雑誌を思い浮かべてみる」 美琴「ま、それはそうだけど。打ち止め、アンタは何のために魅力的な女性になりたいの?」 打ち止め「何のため、って」 美琴「別に太ってるわけじゃないんだし、自己満足の自分磨き? ……それとも、誰かに見て欲しいの?」 打ち止め「え……」 美琴「たとえば、一方通行とか」 打ち止め「う、確かにあの人に子ども扱いをやめてもらうためには有効な手段かなって ミサカはミサカは思ってみたり」 美琴「だからってその相手に心配かけてたら本末転倒でしょうが」 打ち止め「心配……? あの人が?」 美琴「そうよ。アンタがご飯食べないことそれはそれは心配してたわよ」 打ち止め「怒ってただけだったよってミサカはミサカは思い出してみる」 美琴「それが心配なんじゃない。アイツ素直じゃないんだからそれくらい読み取りなさい」 打ち止め「素直じゃないとかお姉様に言われるなんて……ってミサカはミサカは絶句してみる」 美琴「どういう意味よ」 打ち止め「そのままの意味だよってミサカはミサカはとある少年のことを思い浮かべてみる」 美琴「! い、い、い、いったい誰のことなのかしらね」 打ち止め「お姉様の頭に浮かんだ人のことだよってミサカはミサカは意地悪に笑ってみる」 美琴「そ、それはいったん脇に置いときなさい。いい? アンタのこと一方通行が心配してるって言うのは事実よ」 打ち止め「……」 美琴「現に、私にアンタのこと頼むって言ってきたのよ」 打ち止め「あの人が?」 美琴「そ。信じられないでしょ」 打ち止め「……ん」 美琴「それだけアンタのこと気にしてるのよ。アイツは。あ、これ言っちゃったこと内緒ね」 打ち止め「そっかあ、あの人が」 美琴「10032号がアイツのことツンデレとか言ってた意味がわかってきたわ」 打ち止め「それもお姉様に言われるのは……ってなんでもないってミサカはミサカは言いかけた言葉を飲み込んでみる」 美琴「さて、そんな余計な心配かけちゃった相手にいったいどうするべきだと思う?」 打ち止め「……」 打ち止め「……おじゃましまーす、ってミサカはミサカは病室の扉を開けてみる」 一方通行「……」 打ち止め「うう、やっぱり怒ってる? ってミサカはミサカはおそるおそるあなたの背中に聞いてみる」 一方通行「……オイクソガキ」 打ち止め「は、はいっ!」 一方通行「超電磁砲はなンか言ってたか」 打ち止め「ダイエットはやめたほうがいいって。それと……」 一方通行「それと?」 打ち止め「ううん、なんでもないってミサカはミサカはでかかった台詞を封印してみる」 一方通行「……」 打ち止め(やっぱ怒ってるオーラが出てるようってミサカはミサカはドキドキしてみる) 打ち止め「や、やっぱりミサカにはダイエットは早いかなってミサカはミサカは思い直してみたり……」 一方通行「……」 打ち止め(うう、心配ってお姉様の気のせいじゃないのかなあ) 一方通行「腹ァ、減ってンだろ」 打ち止め「う、うん……」 一方通行「これでも食っとけ。昼までまだ時間あっからな」ポイポイポイ 打ち止め「え、ポテチに おせんべ キャルメラ チョコ? 買ったら300円になっちゃった? っていうかなにこれ」 一方通行「うるせェ、食うなら黙って食え。いらねェなら捨てるぞ」 打ち止め「え? え? これあなたが買ってきたの?」 一方通行「……」 打ち止め「心配、してくれてたんだ……ってミサカはミサカはお姉さまの言ったとおりだったってポカンとしてみる」 一方通行「あァ!? あの超電磁砲余計なこといいやがったな!?」 打ち止め「ごめんね」 一方通行「あ?」 打ち止め「もう、心配かけるようなことしないからってミサカはミサカは断言してみる!!」 一方通行「……超電磁砲には借りができちまったな」ボソ 打ち止め「ん? なんか言った?」 一方通行「なンでもねェよ」 ギィ……パタン 美琴「ふぅ、よかったよかった。どうなることかと思ったけど」 美琴「アイツももっと素直になればいいのに」 美琴「ま、一方通行の意外な面も見れて面白かったかな」 美琴「じゃ、今日はこの辺で帰るとしますか。じゃあねー」 おしまい
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3580.html
本気 満点の星空、あの鉄橋の上で、美琴は恐怖していた。ヤツの全力が、想像以上だったのである。(常盤台の寮には、帰れない…………)それどころではない。学園都市中のホテル、ネットカフェに寮監の手が及んでいる。何が起こったのか。簡単に言うと告げ口だ。(迂闊に町の中を歩くこともできない)学園都市にあるカメラは、既に守護神の手中だ。さらに不特定多数の人が、美琴を発見した瞬間にるいぴょんに連絡を入れるはずだ。(能力は使えないし)AIM拡散力場なぞ、第一位に居場所の情報を提供する場に過ぎない。(裏路地にも隠れられない)スキルアウトの情報網なんて、どうやって掌握してんだアイツ。(…………どうしろってのよ…………)鉄橋で佇む美琴。はぁ、とため息を吐いたときだった。「おっす、美琴」と声が聞こえた。そちらを見ずに、逃げ出す美琴。しかし、「はい、あとはお願いしますの」「おう、サンキュな」瞬間移動で振り出しに戻った。もう右手で握られている。逃げられない。「黒子の裏切りものーーーーー!!」「最初にわたくしの愛をふりほどいたのは、お姉様ですの」では、一線だけは越えぬよう、と言い残し消える風紀委員。 鉄橋に残されたのは、男女2人。「やっと捕まえた」3日ぶりだなー、と話すツンツン頭は上条当麻である。彼の右手に捕まれた美琴はキッと睨みつけるのだった。「なんでここがわかったのよ!!!!」「ん? 正確にはお前が誘導されたんだよ。人払い?っていう魔術の応用なんだけどな」ちょっと待ってくれ、といって、携帯であらゆる方面に連絡する上条。その間美琴はあの白い少女と小さい少女を思いだし、頭を抱えた。携帯をしまう上条は、頭を振り回す少女を見て苦笑する。「もう少しで海外に逃げたことを疑って、秘密裏に国際手配するようスパイや大統領、裏組織の首領にお願いするとこだった」笑えない。少し顔を青くして、上条を見る美琴。「悪いけど、この世で俺からは逃げられないみたいだ。で、聞きたいんだけど、なんで逃げるの?」青かった顔をみるみる真っ赤にして、ボフンと音を立てて頭を爆発させる美琴。あう、と言って動かなくなる。「…………話さないなら、オレから確認しちゃうぞ」「ま、待って!!」川の音が耳に入る。それ以外に聞こえない。川の音が耳に入る。それ以外に聞こえない。川の……「それは3日前のことだっ「ふにゃあああああああああ!!」もぐっ」上条の口が美琴の両手で塞がれた。真っ赤で涙目の美琴。しかし、上条も我慢の限界なのである。だから、「ひ、ひにゃあああああああああああ!!」なめた。ペロリと。「にゃにすんにょ!!」「3日前」上条の真剣な顔に、固まる美琴。心拍数がどんどん高くなるのがわかる。身動きが、とれない。「あの公園で、お前が告白してくれたんだよな?」いつもの帰り道。いつものように鉢合わせして、いつものように会話を楽しみながら帰っていた。そんなとき、ふと公園で彼女が立ち止まったのだ。上条が振り返って見た景色は、夕日を背にした御坂美琴。あまりの美しさに息を飲んだ。自然に。そう、自然にという言葉が適切だ。自然に彼女の口は動いていた。『わたしは、上条当麻のことが、すきです』思い出しただけで、顔が爆発する美琴。再び逃げ出そうとするも右手からは逃れられない。ふと気付くと、落ち着く香りに包まれていた。上条に抱き締められていたのである。感情が大爆発し、絶叫する美琴。しかし、上条が耳元でささやくとピクリ、と動いて固まる。「なんで答えも聞かずに逃げたんだよ?」「ぁぅ、あの…………その…………」そっと肩を抱き、体を離す上条。「あっ…………」と、美琴が寂しそうに呟いたのは聞こえないふりをした。「罰ゲームや、なにかのSOSなのかと勘ぐったりしたし、超能力や魔術が美琴に悪さしたのかと心配したんだぞ?」 一瞬で美琴の表情が変わった。迷惑をかけてしまった。焦りにも似たその表情を見て、上条は安心させるよう、言葉を続ける。「でも、それがよかったよ」「どう、いうこと……?」若干涙目の美琴に、上条はイタズラっ子のように笑いかけた。「おかげで、美琴がオレのことを好きで好きで仕方がないってことを、知ることができたからな!!」一瞬沈黙。そして、「みにゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」また絶叫。そして放電。んでもってゲンコロ。「情報を集めるときに、佐天や初春たちに話を聞いたんだ。そしたら、不安だったオレにみんな教えてくれたんだよ」打ち消しただけではない。そのままナデナデに移行する幻想殺し。美琴は、「ふにゃぷにゃ、ぴゃぁ……ぴー……」限界だ。立ったまま意識を放棄。現実で逃げられないなら、現実から逃げるだけである。しかし、ヤツはそれすら許さない。「はい、起きろ美琴~。ギュム~~~~!!」「べやぁあああああああああああ!!」もう一度抱き締めやがった。鼻いっぱいに上条の香りが広がる。全身で上条の抱擁を感じる。こんなん起きるに決まっているのだ。で、もう一回距離を置く。「で、考えたんです」「ぁぅ……」「オレが美琴のことをどう思っているのか」「」「あれ? 美琴さーん?」また止まった。抱き締めるも起きない。ため息が出た。「キスしちゃうぞ」「おはようございます!!」そこまで嫌かよショックー、とほざくツンツン頭。そろそろ美琴の心臓はもたない。しかし、彼は今まで生きてきたなかで、おそらく最高に本気なのだった。「オレが美琴をどう思っているのかを伝える前に!!」「ま、前に……?」「お前はオレを"異性として"どう思っている?」「ふわ「次気絶したら絶対にキスする」…………にゃぁ」真っ赤である。もう、涙目の末期症状だ。眉はハの字。口はぐにゃぐにゃに波打っている。上条は、困ったような笑みを浮かべた。だが、ここで許しはしない。「美琴、オレはな、お前のことを……」頭に、手を添える。「"異性として"好きだ」右手がパキーンと叫んだ。パクパク動く美琴の口に笑みを殺しながら、上条は告げる。「もう一度聞く……。御坂美琴、お前はオレのことを、"異性として"どう思ってる?」美琴の目はついに我慢の限界だった。見事なまでに赤い顔に、2筋の線が輝く。「そん、なの……、決まって、る、じゃにゃい!! すきなんてもんじゃない!! アンタの、ことが、大好きで、しかたにゃいんだがらゃぁぁああああああああああああああああ!!」逃げた。 もう一度いう。美琴は、全力で走って逃げた。彼女を抱き締めるために動いた腕は、虚しく空振り。一瞬感情を無くした上条。少しして表情と背景の文字で、「え~?」という気持ちを全力で表す。しかし、気づいた。少し先の鉄柱。その影に美琴はいた。「ぽーー…………」真っ赤である。頭の上にふわふわとお花を飛ばし、熱視線を上条に送る。つまり、見とれているのだ。その熱にあてられた上条も、一瞬顔を赤くする。しかし頭を振ると、全力で美琴に向かって走り出した。「えぇ!!? あ、ふにゃ……うわ~ん!!」あたふたした美琴は、結局逃げることにしたらしい。今日この日、「いや!! 絶対に今ではオレの方がお前のことを大好きだもんね!!」と叫びながら追う男と、「そんなことないもんっ!! 絶対にわたしの方が大好きなんだからぁぁああああああ!!」と叫びながら逃げる女が付き合い始めた。バカップルこの上ない2人だが、数年後にあっさりとバカップルをやめてしまう。というのも、アイツがまた本気を出しただけなのだが。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2901.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた 恋愛相談 美琴はアイスコーヒーを一口飲み、喉を潤した。 「その、本当に大した事じゃないんだけど、いつだったかな、私が5、6人ほどの不良だか武装無能力集団だかに絡まれた事があったのよ。で、その時余計な茶々を入れてきたのがアイツってわけ。そこから腐れ縁が始まったのよ」 「へー」 「ね、大した事じゃないでしょ」 そう言いながら美琴は再びアイスコーヒーを口にした。 「ま、まあ確かに、それだけ聞くと、ちょっとかっこいい出会い、くらいにしかなりませんね」 「何言ってるのよ、ちっともかっこよくなんてないわよ。だいたいアイツ、知り合いのふりして私を連れて逃げようとしたのよ。奴らをぶっ飛ばそうともせずに、最初っから逃げる前提の行動。さすがにこれをかっこいいと言うつもりは私にはないわね」 「なるほど」 「それにあの時、アイツったら私のことをガキ呼ばわりしてさ。正直言って電撃で消し炭にした不良どもよりアイツの方が頭に来たわよ」 「はあ。あれ? 結局、武装無能力集団は御坂さんがやっつけちゃったんですか」 「そのくせ逃げ足だけはやたらと速いのよ」 「逃げ足、ですか」 「そう、おかげでこっちは何度も門限破りさせられたわ」 「え? ち、ちょっと待ってください御坂さん」 「どうしたの?」 今まで相づちを打っていた佐天が突然話を遮ってきたため美琴は首を傾げた。 「どうして門限破り? それも何度とは?」 「街で見かける度にアイツを追いかけてたからよ。そりゃ一晩中追いかけてたから、門限破りするしかないじゃない。でしょ」 「でしょって、そもそもどうして追いかけるなんて事に」 「だってムカツくじゃない! 助けに来てくれた時は私もちょっとは感謝しようと思ったのよ、学園都市の男にもたまにはまともな奴がいるんだって。それなのに人をガキ呼ばわりして馬鹿にするなんてさ。それじゃ感謝しようとした私が馬鹿みたいじゃない! だから勝負申し込みまくってたのよ。一度くらいはぶっ飛ばしてやらないと気が済まない、と思って。なのにアイツってば私からずっと逃げてるし!」 「それは御坂さんが、相手の都合も考えず問答無用で勝負を挑んで追いかけ回すからじゃ……。あの、追いかけ回すってひょっとして、この間みたいに電撃バチバチィっとしながら、だったりします?」 「当然」 美琴は大きく胸を張った。 「そりゃ誰だって逃げますよ……」 佐天は呆れたようにため息をついた。 「そうかしら?」 「結局御坂さんって、その時のことが原因でカミジョウさんを追いかけ回してたんですか。それも何度も門限破りをするほど頻繁に」 「そうよ」 「そうですか、色気の欠片もない話ですね……」 「? とにかく、こんな感じでアイツとのよくわかんない付き合いが始まったのよ。それからは、まあ、色々、あって……アイツも私も、それなりに忙しくなって。追いかけっこは自然になくなっていって……」 「色々」と言った瞬間、美琴の脳裏には絶対能力進化実験の悪夢や命を落とした妹達の顔が浮かんだが、美琴はそのことに起因する感情の変化を一切表情には表さなかった。 これはもちろん佐天や初春に対する美琴なりの精一杯の友情によるものである。 「…………」 ほんの少し心にできたさざ波を打ち消すため、美琴はアイスコーヒーを飲み干した。 「それで、追いかけるうちに御坂さんの心にカミジョウさんが入り込んじゃってたってわけですか?」 「えと、まあなんと言うか、そんな感じ……」 「ん? うーん、でもそれって、ちょっと足りなくないですか?」 「足りない?」 「はい。そうやって意識していったっていうのは事実なんでしょうけど、何かもう少し強いきっかけがあったんじゃないんですか?」 佐天の目がほんの少し細くなった。 「え……」 「それも八月の終わりくらいに」 「…………」 美琴は努めて冷静を装ったままゴクリとつばを飲み込んだ。 美琴は思った。 八月に起こった上条当麻への御坂美琴の認識を決定的に変えた事件、つまり絶対能力進化実験の事は美琴と上条以外誰も知らないはず。 知らないはず、いや、特に今、美琴の目の前にいる少女達は絶対に知ってはならない事件。 それは学園都市の闇に触れていない佐天や初春の安全を守るためにも絶対そうあるべきもの、そうでなくてはならないものだからだ。 だからこそ美琴はどれだけ絶望に打ちひしがれようともあの事件を一人で解決しようとしたのだ。 なのに美琴の目の前の佐天涙子という少女は、何か感づいているような様子を見せている。 いったい佐天は何を知っているのだろうか。 美琴は背中に冷たいものが流れるのを感じていた。 美琴が動揺している前で、佐天は隣にいる初春の質問に答えていた。 「佐天さん、八月の終わりに何があったんですか?」 「え? あのね初春――」 「…………」 美琴の心に緊張が走る。 「八月の終わり頃に、あたし、御坂さんに頼まれてクッキーの焼き方教えたのよ。今だからわかるんだけど、あれってカミジョウさんへのプレゼントだったのよね。あのとき御坂さんは全力で否定してたし、相手の名前すら教えてくれなかったんだけど。まあそれはいいとして。とにかくこの事実から、八月の終わり頃の御坂さんには、カミジョウさんに何らかのお礼をしなければならない理由があったって事がわかるでしょ。つまりここから、八月に二人の間には何か感動的な出来事があったって推論が成り立つわけ。えへん、どうよ初春! この名探偵ルイコ・ホームズの名推理!」 佐天は得意げな顔をして胸を張った。 しかもどこから取り出したのか、鹿撃ち帽までいつの間にかかぶっていた。 「…………」 結局、美琴の心配は杞憂だったらしい。 佐天は何も知らず、あくまで推理として美琴と上条の間に何かあったのでは、と考えていただけだったのだ。 美琴は全身から力が抜けていくのがハッキリとわかった。 そんな美琴の感情の変化を知らないであろう佐天は、美琴に顔をぐいと近づけた。 「ね、御坂さん。あのクッキーってカミジョウさんにプレゼントするためだったんですよね? あたしの推理、合ってますよね! 二人の間にドラマのような何かがあったんですよね!!」 美琴は顔を若干引きつらせながら、顔の前で手を横に振った。 「えーっと、ないわよ別に、これと言って」 「えー! そうなんですか!?」 「そうよ。だいたいあの時あった事って、ちょっと怪我したのをアイツに助けてもらったって事くらいだもの。クッキーだってそのお礼のためだったんだし。だから残念でした、ルイコ・ホームズさん。あなたの推理は外れよ」 決して嘘ではないが、美琴は事実とは大きく異なる事を告げた。 美琴の心に若干の罪悪感が過ぎる。 「なーんだ、てっきりドラマとか漫画とかみたいな何かあったもんだとばっかり……」 美琴の言葉に、佐天は思いきり不満そうな表情になる。 「ほんと、ごめんね佐天さん」 美琴は掌を顔の前で立て片目をつぶり、謝罪のポーズを取った。 「そうですか……」 佐天は大きくため息をつくとドリンクバーに移動し、そこから三人分のジュースを取ってきてそれぞれの前に置いた。 「クッキー作ってる時の御坂さん、一世一代の大勝負って感じがしたんですけど。そんな大きな事はなかったんですね」 「佐天さん!」 ややつまらなさそうにつぶやいた佐天に対し初春が大声を出した。 「何つまらなさそうにしてるんですか! 大きな出来事がないって事は、逆に言えば御坂さん達はゆっくりゆっくり愛情を育んでいったって事になりますよ。最初はただのケンカ相手。でも思い出が重なるうちに、知らず知らず愛情が……なんて、それはそれですごくドラマティックじゃないですか! でしょう!」 「そ、そうね、そう考えれば……すごくアリね! なるほど、こういうドラマもあるわけか、やるわね初春。さすがあたしの片腕」 「えへへへ」 佐天に褒められ、初春は嬉しそうな顔になった。 そんな初春を見ながら佐天はうんうんとうなずいた。 「それで、ここから先はあたし達も知ってる事ばっかりなんですよね。夏休み最後の日にわざわざ常盤台の寮の前でカミジョウさんをナンパしてデートしたり、学芸都市から帰ってきてからデートしたり、お好み焼き屋でデートしたり、お弁当作るようになったり、放課後は二人で勉強したり……」 佐天は顎に指を当てた。 「御坂さん。これでなんで付き合ってないんですか?」 美琴は再び顔を引きつらせた。けれどその表情には朱みがかかっており、彼女が決して嫌な気分でない事は誰の目にも明らかだった。 「え! だ、だって、なんでって言われても、私達が付き合ってないのは事実だからそれ以上言いようがないし」 「デートやらなんやらしまくってるくせに」 「あ、あれはその! だからそんなデートなんかじゃないわよ! 夏休み最後のやつは私につきまとってたしつこいストーカー男を追い払うためだし、お好み焼き屋は欠食児童だったアイツに食事奢っただけだし、ちゃんとしたデートなんて、そんな。それに、お弁当は料理の練習だし」 「そういう名目で、てだけですよね」 「う……。それは、その。だから後、べ、勉強だってアイツが困ってるから、優しい私が助けてあげてるだけだし」 「御坂さん、どうしてそう理屈つけなきゃ会えないんですか。普通に会えばいいのに」 初春と佐天は呆れ顔になった。 「だって、だって! アイツはそんな、甘い気持ちなんか、絶対ない、から、こんな理屈でもつけないと、ちゃんと、私になんか会って、くれない……」 そこまで言うと美琴は辛そうにぎゅっと唇を噛んだ。 その気持ちは佐天達にも伝わった。 「御坂さん……」 「ああ、もう!」 美琴と同じく辛そうな表情をした初春とは対照的に、佐天は険しい表情でバンと机を叩いた。 その音に美琴は体をびくりと震わせた。 「御坂さん、確認しますよ!」 「は、はい」 「御坂さんとカミジョウさん、お二人の関係はどこまで進んでるんですか?」 「か、関係って、だからそれはその……」 「だからウジウジしないでください! 御坂さんらしくない! お二人が付き合ってないって事はわかりました。だから、キスはしたのかとか、お泊まりはしたのか、とかそういう具体的な事を言ってください!」 「き、キスぅ! おと、と、お泊まりぃ!」 佐天の言葉に美琴は目を丸くした。 「そうです! したんですか、してないんですか!」 美琴は今日一番とも言えるほど顔を真っ赤にして顔をぶんぶんと横に振った。 「してない、してない! そんなのできるわけないじゃない!!」 「つまりこの間の公園デートのあれ、キス未遂が精一杯だった、と」 「そうそう。……え!? なんであのデートの内容知ってるの!?」 「白井さんと一緒に風紀委員の監視カメラで見てたからですよ。ちなみに録画してましたから固法先輩も見てますよ……って、そんな事はどうでもいいです」 「よ、よくないわよ!」 「いいんです! とにかく御坂さん。あなたの気持ちはよくわかりました! いつもの御坂さんではあり得ないほどのその消極的態度からも、あなたの切ないほどの本気度は伝わってきました! だからやりましょう! この柵川中学のエンジェルシスターズ、佐天涙子と初春飾利が、あなたの恋を全面的にバックアップします!」 「佐天さん……。でも……私は別に、あの、アイツのお弁当を作ってあげられる今のままでも十分……」 美琴は未だに暗い表情のまま渋る。 「何を言ってるんですか!」 佐天は美琴の顔をキッとにらみつけた。 「御坂さんの話を聞いていてあたし、ピンと来たんです。カミジョウさんって結構モテるタイプだと」 「モテる? アイツが?」 「はい。だってカミジョウさんって大勢の不良に囲まれた女の子を、下心もなく自然に助けちゃう人なんですよ。助けられた女の子からしたら完全に王子様じゃないですか、カミジョウさん。女の子って、ちょいワル系と同じくらいこういう王子様的男の人に弱いんですよね」 「で、でもあの時のアイツは――」 「助け方なんて問題じゃありません。普通の人なら怖じ気づいちゃうような人助けを自然にする、その好意そのものが王子様だって言ってるんです! 御坂さんはご自分が強いから助け方に意見があるかもしれませんけど、普通女の子はそんなところ気にしませんよ、助けられた事が重要なんです! きっとカミジョウさん、あっちこっちでそんな事してますよ!」 「え――」 「そうしてカミジョウさんの事を知り、その良さを知った人はきっと御坂さん以外にもいるはずです。ううん、たとえ今いなくても近い将来きっと現れます! ルイコ・ホームズは嘘を言いません。あたしの分析と推理は完璧です! そうなったら遅いんです、わかりますよね御坂さん!」 「…………」 佐天の言葉を聞く美琴の脳裏に、インデックス、吹寄、風斬、姫神、といった上条と親しい女性の姿が浮かんだ。彼女達はみな美しく魅力的で、自分よりもはるかに上条の側にいるのにふさわしい、美琴にはそう思えた。 しかも彼女達の存在はあくまで美琴が知っている範囲であり、おそらく上条と親しい女性はきっと他にも大勢いるのだろう。 なんとなくだが美琴の女としてのカンがそう告げている。 それと同時に美琴の心をえぐったのは、上条がインデックスと同居していると知った時の絶望や、去っていく吹寄を上条が追いかけようとした時の喪失感であった。 いくらインデックスや吹寄が上条と共にいるのにふさわしくても、それでも、あんな思いは二度としたくない、美琴は心の底からそう思った。 心に徐々に灯がともり始めた美琴に、佐天はさらに語り続けた。 「大切なお友達である御坂さんの恋、あたしは絶対に叶えてもらいたいんです! 恋は戦争なんです! 攻撃しなきゃ負けるんです! やりましょう、御坂さん!! カミジョウさんの事、好きなんですよね!!」 美琴は小さくうなずき、心を決めた。 「佐天さん……ありがとう」 美琴は佐天の手をぎゅっと握り頭を下げた。 「頑張りましょう、御坂さん!」 佐天も美琴の手をぎゅっと握り返した。 「エンジェルシスターズってなんですか、それ……。だいたい、学校でも誰かの恋愛相談に乗った事なんて一度もなかったはずですよね、佐天さん。それにいつまで鹿撃ち帽をかぶってるんですか。シャーロックさんは、挿絵を除けば本編で一度も鹿撃ち帽なんてかぶっていないはずですよ」 少し場違いな空気を漂わせている美琴と佐天を見ながら、初春はゆっくりと頭を振った。 「御坂さんの応援そのものは大賛成ですけど。佐天さん、むしろ私達は何もしない方が上手くいくんじゃないでしょうか……」 初春は紅茶を一口飲むと小首を傾げた。 「あれ? そういえば御坂さん、カミジョウさんが好きだって事、いつの間にか自覚してたんですね。しかももう隠すつもりなんてさらさらないくらい開き直ってる、と」 一時間後。 上条攻略のために美琴から二人の現状を改めて聞いた佐天は目を閉じ、深々とため息をついていた。 一方美琴はそんな佐天の前でしゅんと肩をすくませていた。 「まさか、ここまでだったとは」 「面目ない、です」 佐天は片目を薄く開けた。 「御坂さん、いくら恥ずかしいからって、自分の想い人をアンタ呼ばわりはまずくありませんか?」 「や、やっぱり、そう思う?」 「当然です」 両目を開けた佐天は美琴をキッとにらみつけた。 それに対し美琴はしどろもどろに言い訳を始める。 「で、でもね、私達ってケンカばっかりしてたわけだから、その時はアンタって呼んでてもおかしくないわけだし、それがね、今も続いてても」 「じゃあなんですか御坂さん? 御坂さんはそのケンカ友達をこれからもずっと続けていくつもりなんですか?」 「それは……」 「御坂さんはずっと仲のよいケンカ友達止まり。方やどこかの御坂さんではない女性は上条さんにとって誰よりも大切な唯一無二の存在に。それでいいんですか?」 「けど佐天さん。あのね、たかが呼び方一つでいくらなんでもそこまで……」 「一事が万事です。呼び方って、相手のことをどう認識してるかって事に繋がるんですよ。納得できませんか? それじゃあ視点変えてみましょう。カミジョウさんは、御坂さんのことをどう呼んでるんですか?」 「アイツが?」 「カミジョウさんが、です」 「アイ、じゃなくて、その、上条、当麻さんは、私のことを、御坂って。それから、たまにビリビリ」 「はあ? な、なんですか、それ!? 名字はともかくビリビリって! ほとんど悪口じゃないですか!」 佐天は目を丸くした。 「……やっぱり。そう思う?」 「思いますよ! 正直、ちょっとカミジョウさんを見損ないましたよ、あたし。まさか女の子相手にビリビリなんて」 佐天は憤り鼻息を荒くした。 「でしょ!」 美琴は身を乗り出した。 「やっぱり失礼よね! そんな呼び方されたら怒ったって仕方ないわよね!」 「はい、仕方ないですね。ですが御坂さん」 「はい?」 「そう呼ばれたからって、いきなりプッツン起こして電撃で追いかけ回したりは、してませんよね?」 「え」 「ま、せ、ん、よ、ね?」 佐天はゆっくり一文字ずつ区切りながら美琴に問うた。 「……それは、その、追いかけて、ます」 言いにくそうに話す美琴の返事を聞いた佐天は、盛大にため息をついた。 同じように初春もため息をついていた。 初春はそのまま佐天の言葉を引き継いだ。 「それじゃ説得力ないじゃないですか。ビリビリを地でいっちゃ」 「だって……」 「だってじゃありません! ……もう。ですがこれで決まりですね」 「何が?」 「カミジョウさん陥落作戦の第一弾、ですよ。お互いを名前で呼び合おう! これです」 「名前で?」 「そうです。カミジョウさんは美琴、御坂さんは当麻、そう呼び合うんです」 「え――! いきなりそんなハードなミッションを!?」 「……大してハードでもないでしょう。たかが名前で呼び合うくらい。恋人ならむしろ当然です」 「た、確かに、それはそうだけど。でも……」 「じゃあ御坂さん、結婚してもカミジョウさんのことをアンタって呼ぶんですか? パパとママになっても子供の前でそう呼び合うんですか?」 「け、けけけけけケッコン! パパパパパパママママママ! 子供、もももも……」 「です。将来的にはそうなりたいんですよね?」 「え、えとととと……」 「ですよね?」 「……うん」 念を押してきた初春の言葉にしばらく逡巡していた美琴は、やがて恥ずかしそうにこくりとうなずいた。 「はい、よくできました」 その様子を見た初春は満足そうにうなずいた。 佐天はそんな初春を若干引き気味に見ていた。 「初春、アンタ相変わらずここぞと言うところでは飛ばすわね」 「何がですか? ごく普通の会話じゃないですか」 「…………」 苦虫を噛みつぶしたような表情になった佐天から美琴に視線を戻した初春は、にっこりとほほえんだ。 「それじゃあちょっと練習してみましょうか」 「練習?」 「はい、ここにカミジョウさんがいる、と思って、当麻って呼んでみてください」 「え、ええええっと、えっと……」 「ほら、勇気を出して」 「…………」 美琴は目を閉じ何度もうなずくと、口を開け必死で声を出し始めた。 「と、とととととと、ととう」 「ほら、頑張って」 「とう……ま」 ようやくそう言った美琴は力尽きたように椅子の背にもたれかかった。 その様子はまさに疲労困憊という感じであった。 しかし初春も佐天も美琴に容赦する気は全くない。 佐天は手をパンパンと手を軽く二回叩いた。 「はい、それじゃあもう一回。今度は詰まらないでください」 「ま、また!?」 「一回で練習が終わるわけないじゃないですか。はい、どうぞ」 「う、ううう」 体を起こした美琴は両手でしっかりジュースの入ったコップを握ると、目を閉じ呼吸を整え始めた。 ゆっくりと鼻から息を吸い、口から少しずつ息を吐き出しピタリと止めた。 「ととととと、とう、とうとうとう……」 「御坂さん、カミジョウさんとの幸せな未来を思い浮かべて頑張ってください。お子さんは何人ですか? 大きな犬を飼ったりするんですか?」 初春が美琴を激励する。 「とうとう、とうととととと――!」 美琴が顔を真っ赤にしながらなんとか上条の名前を言おうとした瞬間、彼女の持つジュースが沸騰を始めた。 興奮した美琴から漏れ出る電気が流れる事によって、ジュースが温められたからだ。 佐天達はあわてて美琴を制しようとした。 「み、御坂さん、ち、ちょっとジュース、なんか沸騰してますよって御坂さん、電気が、電気が!」 「御坂さん、電気止めてください! わわ! ネットブックとか携帯とかもう大変です、壊れちゃいますよ!!」 「とととととと……」 しかし緊張して興奮状態にある美琴から漏れる電流は止まらない。いや、美琴自身にはもはや止められない。 それは人体にはさほど影響はないとはいえ、電化製品には深刻な影響を与え始めていた。 「キャー、何これー!」 「イヤー!」 美琴が漏らす電気はすぐに店中に広がり、店のあちこちから阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえだした。 「御坂さ――ん! 勘弁してくださ――い!」 「……ハッ!」 佐天達の数度にわたる叫び声にようやく正気を取り戻した美琴は、周りの惨状を確認すると佐天達と共にそそくさと店を後にした。 余談だが、後日この店や居合わせた客に対して美琴が謝罪や弁償をする羽目になったのは言うまでもない。 店を後にした美琴達は、公園のベンチに座って肩で息をしていた。 「びっくりした……」 やがて、ようやく人心地付いた美琴が申し訳なさそうに佐天と初春に頭を下げた。 「ごめんね、佐天さんも初春さんも」 美琴の謝罪に対し、佐天も初春もゆっくりと首を横に振った。 「いえ、あたし達も悪かったですし」 「確かにちょっと調子に乗りすぎましたね。あの店や他のお客さんにも悪い事しちゃいました」 「今度、ちゃんと謝罪に行っておくわ……」 美琴は深々とため息をついた。 初春は小首を傾げた。 「御坂さん、私お店で思わず叫んじゃいましたけど、あの電気ってやっぱり御坂さんが出してたもの、なんですよね?」 「…………」 美琴は申し訳なさそうにこくりとうなずいた。 「そうですか。念のために聞きますけど、わざとあんな事したわけじゃ、ないですよね?」 「当然よ。なんで私があんな、みんなに迷惑かけるような事をしなきゃいけないのよ。少なくとも、わざとじゃないわ、絶対に」 「それを聞いて安心しました。でも、それじゃあどうしてあんな事に? 御坂さんはレベル5の電撃使いなんですから、あんな事本来起こさないはずですよね?」 「それは、その、自分でもよくわかんないのよ」 「え。マジですか?」 「大マジ」 顔を引きつらせた初春に、美琴は悔しそうな表情で答えた。 「私に限って能力が暴走するなんて、電流が漏れるなんてあり得ないはずなのよ。だって私はレベル5なのよ、自分だけの現実なんて完璧に制御できてるはずなのよ。なのに、どうして……」 「御坂さん……」 唇をぎゅっと噛んだ美琴を辛そうに初春は見つめるが、その傍らで佐天が得意そうな顔をして立ち上がった。 「ふっふーん、あたし、わかっちゃったかも」 「何が?」 「どうしたんですか佐天さん、いきなり?」 「だ、か、ら、わかっちゃったのよ、御坂さんの不調の原因」 佐天は得意そうな顔のまま人差し指を振った。そのまま鹿撃ち帽のつばをピンと指ではじく。 美琴は立ち上がり、佐天の肩をぐっと掴んだ。 「え、本当なの佐天さん!? 本当にわかったの!?」 美琴の迫力はかなりのものだったが、佐天は気にする事もなくその表情をさらに得意そうなものにした。 「はい、ルイコ・ホームズは名探偵ですからね。謎は全て解けました! だからまずは落ち着いてください」 そう言いながら佐天は美琴の手を外すと、彼女をベンチに座らせた。 「本当ですかぁ?」 初春はそんな佐天をジト目で見た。 「何よ、初春、疑うの?」 「疑うも何もぉ、私、ルイコ・ホームズなんて言葉自体、今日初めて聞きましたしぃ。だいたいそのネーミングセンス自体、子供っぽいですしぃ」 初春は嫌みたらしく語尾を伸ばして佐天に茶々を入れた。 佐天は初春の態度に唇を尖らせた。 「ふーん。あたしってそんなに子供っぽいんだ。こーんなパンツ履いてる初春に言われるくらいに」 佐天は初春のスカートの前部を大きく捲りあげた。 「あ、かわいいカピバラ親子のアップリケ。新作じゃない」 「な……」 初春は涙目になってスカートを押さえた。 「何するんですか佐天さん、スカートは捲らないでってお願いしてるのに!」 「ちょっとしたコミュニケーションじゃない、減るもんじゃなし気にしない気にしない」 「減らなくても私の自尊心が傷つきます!」 「はいはい、わかったわ、今日の所はもう止めてあげるわよ」 「金輪際止めてください!」 「ハッハッハ。愛い奴よのう、初春飾利くん」 カラカラと笑っていた佐天は、その表情を真面目なものに変えた。 「てなわけで、そんなに疑うんならやってみせるわよ、ワトソン、いやさかわいいかわいいカピバラさんパンツの初春くん」 佐天は涙目ながらも自分への疑いのまなざしを変えない初春から視線を外すと、美琴の方を向いた。 「さて」 ニヤリと笑みを浮かべた佐天は美琴の耳元へ口を寄せると、ポソッと一言つぶやいた。 「…………!」 その瞬間、美琴の顔は真っ赤になり、彼女の周りの空気は電気を帯び始めた。明らかに先ほどの喫茶店での現象と同じく美琴の能力の暴走である。 「ね」 佐天は初春にウインクをした。 「ほんとですね……。で、御坂さんに何を言ったんですか、佐天さん?」 不思議そうな初春に佐天はニヤリとした笑みを返した。 「簡単よ、『カミジョウさんの事どう思ってます?』って聞いたら一発でこうなっちゃったの。つまり御坂さんは――」 「カミジョウさんが絡んだらこうなる、と?」 「ご名答」 佐天はうんうんとうなずいた。 「すごいです。でも佐天さん」 「うん?」 「またヤバくなってますよ」 「あ」 初春の指摘通り、佐天の一言から妄想が暴走し始めた美琴の漏電は酷い有様になり始めていた。 「どうって、え、それって好きかって事よね。それ、それはそれでまあ確かにそうなわけで。で、それなら私はアイツとこれからどう、えっと――」 あわてて佐天達は美琴を止めに入った。 「御坂さ――ん、戻ってきてくださ――い!!」 その後、なんとか冷静さを取り戻した美琴だったが、彼女と、そんな彼女をなだめすかしきった佐天や初春は疲労困憊になってしまっていた。 疲れ切った三人は互いに肩を寄せ合うようにベンチに座り込んでいた。 「ごめんね二人とも、本当」 小さくなる美琴に佐天は大きくため息をついた。 「御坂さん、カミジョウさん陥落作戦第二弾、行きましょう」 「え! 第一弾もまだなのに!?」 「同時にですよ」 驚く美琴に佐天は疲れ切った表情で応えた。 「そ、そう。で、何をするの?」 「電気のビリビリ、抑えましょう。このままだと色々まずいと思います、カミジョウさんの心証的にも体力的にも」 「あ、それなら大丈夫よ。アイツに電撃ぶつけないように最近気を遣ってるし」 「そうなんですか。それじゃあ、漏電の方は? そっちもしないようにしてますか?」 「えと、そ、それは、して、ない……」 佐天の質問に美琴は肩をすくませる。 「じゃあそれはやりましょう。特にこれからカミジョウさんとの距離が近づく度に御坂さんはこういう事になっちゃいそうですから。ね」 「…………」 「ね」 「わかりました……」 美琴は小さくため息をつきながらこくりとうなずいた。 結局この日は三人は体力的に限界だったため、美琴の上条当麻陥落作戦は明日以降に持ち越し、という事になったのだった。 「とりあえず、今から携帯ショップに行きませんか? 携帯の修理、頼まないといけませんし」 「賛成」 「二人とも、ごめんね……」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2462.html
前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/居場所 クリスマス・プロローグ編 とあるアクセサリーショップの前。ウィンドウショッピングというには、余りに険しい表情を浮かべる少年がいた。腕を組みガラス越しに、透きとおる緑がかった青い小さな宝石がついたペンダントを睨むように見ていた。 値段にして二万丁度。決して豊かとはいえない少年のお財布事情からすれば、諭吉さんが二人も旅立ってしまうのは、寂しすぎる。 唸り始めた少年の隣。そこにはまだ湯気の出ている肉まんと、それが幾つか入っている紙袋を持った、金刺繍のシスター服に身を包んだ少女がいた。 肉まんの味を堪能していた彼女は、不意に少年に目をやり呆れた表情を浮かべた。 「そんなに悩むんならさっきのゲコ太にしちゃえばいいんだよ」 「一年に一度、しかも初めてのプレゼントなんだぞ!? なんか、いいのプレゼントしたいじゃないか!」 「でも、あの短髪ならゲコ太の方が喜びそうなんだよ」 言われ、少年が言葉を返せなくなる。言われてみれば確かにそうかもしれないと、少年も思ったのだ。何せ、あの少女のゲコ太好きは自分では計り知れない部分がある。 二個目の肉まんを取りだした少女が、もぐもぐと頬張りながら続ける。 「っていうか、短髪のプレゼントを買いに行くのに私を連れていくのはどうかと思うんだよ、とうま」 「しょうがないだろ、頼めるのがお前くらいしかいなかったんだから。肉まんも買ってやっただろ、インデックス」 上条の言葉に、インデックスは肉まんをかじりながらむー、と唸っていた。 先週、インデックスは上条から自分と美琴が付き合う事になったと聞かされた。それを聞かされた時、正直、かなり腹が立った。なので、いつもの倍では利かない位噛みついてやった。咀嚼もしそうになったが、それは我慢した。 (だって、私に一言も相談しないで決めるなんて許せないんだよ!) インデックスが起こったのはそこだ。上条と美琴が付き合う事自体は構わないのだ。上条の事は大好きだが、その大好きな上条が選んだ相手なら、インデックスに文句はないのだ。ただ、ちょっとはムカついた。大好きな家族が取られた気がして。 そんな事を考えていると、隣から声が聞こえる。見れば、上条が宝石を指さしていた。 「なぁ、インデックス。この宝石、何て名前かわかるか?」 「この、とうまがずっと見てたやつ? アイオライトっていう宝石だよ」 「アイオライト? 聞いた事ねぇな」 「んー、専門のお店以外だと誕生石とかが多いから、とうまが知らなくても無理はないかも」 アイオライト。上条が指さしたペンダントにはその宝石が付いている。少し透けている、緑がかったその青い宝石を見て、インデックスは少し感心していた。 アイオライトの宝石言葉。その宝石を知らない上条が、宝石言葉なんて知っているとは思えないが、それでも、中々いい言葉を持つ宝石を選んだと、インデックスは思っていた。 ただ、やっぱり、ちょっとは複雑だ。大好きな家族の恋人のとはいえ、他の女性のプレゼントを買いに行くのに付き合わされるというのは。 ごそごそと紙袋を探っていると、いま入っているのが最後だった。最後の一個くらい上条に上げようと、上条を見る。が、こちらには気付いておらず、アイオライトと財布の中を何度も見ていた。 この宝石を買う事に決めた様だが、値段がやはりその決断を阻んでいる様だ。 「インデックス! これからしばらくは質素な食生活だ!」 その上条の決断に、インデックスは上条に上げようと思っていた肉まんを頬張る。今の内に食べ溜めておかなくては。 もぐもぐと肉まんを頬張るインデックスを置いて、上条は店内に入っていく。 振り返り、インデックスはガラスに背を預け空を眺める。今にも雪が降りそうな空だ。その空を見ながらふと思う。 上条は大好きな家族だ。インデックスから見れば兄の様な存在だ。その兄の恋人、という事は将来、短髪は自分の姉の様な存在になるのだろうか。それは、ちょっとではなく、かなり嬉しい。家族が増えるのは大歓迎だ。 (今度、お姉ちゃんって言ってからかうのも面白いかも! あと、とうまにお兄ちゃんって言ったらどんな反応するか気になるかも!) 肉まんを食べながら、インデックスは心が暖かくなっていくのを自覚する。 肉まんを食べ終えるのとほぼ同時、上条が店の中から出てきた。その手には綺麗にラッピングされた袋があった。中身はアイオライトのペンダントだ。 「ちゃんと買えた、とうま?」 「おう! 諭吉さんが二人も旅立っちまったが俺に後悔はない!」 「後は短髪に渡すだけだね。でも、とうまの事だから、当日にプレゼント忘れそうで心配かも」 「そこは上条さんも心配です……」 不安そうな表情を浮かべる上条に、インデックスは微笑みを零す。 その笑みのまま、インデックスは上条の手にあるアイオライトへと目をやる。 上条の初めての恋が、アイオライトの宝石言葉に変わるのはそう遠い事じゃない。インデックスにはそう思える。 上条を見ていると何となくそう思うのだ。上条がどれだけ美琴を想っているのか。何となくだが、伝わってくる。 幸せになって欲しい。それが、インデックスが二人に唯一願う事だ。 が、今一番に願う事は、さっきから香っているこの匂いだ。インデックスはこの匂いのする方向を指さし上条を見る。 「そんな事よりとうま! あそこで美味しい匂いを出してるたい焼きーって食べ物を食べたいんだよ!」 「質素な食生活といった矢先に!? つーか、肉まん食べたでしょ! しばらくお預けです!」 「むー! とうまのけちー! いいもん、とうまと短髪のデートに乗り込んで短髪に奢ってもらうんだよ!」 「それはお願いですから止めてくださいインデックスさん!?」 振り向きインデックスは少し乱暴な足取りで、さり気なくたい焼きを売っている移動販売の車へ向かう。その事に気付いていない様子の上条が、慌てて付いてくる。 楽しい。上条とのこういうやり取りは何度やっても楽しい。そして、これにあと少しで美琴が加わるかもと思うと、もっと楽しい事になるんだろうな、という期待しか湧かない。 上条と美琴。その二人が並んで歩く光景を早く見たいと、インデックスはたい焼き屋を目指しつつ思う。 学生が主な客層であるSeventh_mist 。その店内にあるとあるアクセサリーショップの中、同じ制服を着た同じ顔をした少女が二人、違う表情で居た。 鮮やかな黄緑色の宝石をあしらったネックレスを前に、険しい顔で少女の片方はそれを睨むように見ていた。隣では、乏しい表情ながらも、僅かに呆れを滲ませていた。 「もう10分以上そうしているのにまだ決められないのですか、とミサカはお姉さまの優柔不断さに呆れます」 「う、うるさいわね! 別にいいじゃない! 当麻への初めてのプレゼントなんだから!」 「ついこの前まではアイツ呼ばわりだったのに今では呼び捨てですか、とミサカはなんか殴りたい気持ちに駆られます」 少女、御坂美琴は今も好き放題言ってくれる御坂妹の言葉を聞き流しながら、ショーケースの中に収まっているネックレスを見る。 黄緑色の宝石だけが付いた、それ以外の装飾もない至ってシンプルなデザインをしたネックレスだ。値段も、学生を相手にしたSeventh_mistの中にある店だからか、店の雰囲気に反してお手ごろだ。とはいえ、少々背伸びする様な値段ではある。 ついには唸り始めた美琴を横目に、御坂妹は彼女と同じ宝石に目をやる。 「ダイオプサイド。あまり聞かない宝石ですね、とミサカは実は地味な宝石なのではと疑います」 「んー、ダイオプサイドって名前よりも透輝石って名前の方が知られてるかもしんないわね」 「ミサカはどっちも知りません、とミサカは単にお姉さまが博識なだけと推測します」 宝石に熱中していたかと思われた美琴が、意外にもすぐに言葉を返してきた事にちょっとびっくりしながらも、御坂妹はいつもの調子で返す。 ダイオプサイドという名前の宝石を聞いた事が無い御坂妹は、宝石の隣にその説明が書かれているのを見つけた。 ダイオプサイドの中でも色々と種類がある様だが、緑色のこれはクロム・ダイオプサイドというらしい。他にも組成式など色々と小難しい事が書いてあるのは、学園都市だからか。 御坂妹はその辺りをすっ飛ばし、宝石言葉という所を見つける。それ読んで、あぁなるほど、と御坂妹は納得する。確かに、上条はこの宝石言葉の通りの存在だ。 「うん、決めた! ちょっとお会計してくる!」 そう言って、美琴はレジへと行く。その美琴の背を見ながら、御坂妹は思う。 この二人が付き合った、という話を聞いたのはついさっきだ。日課である散歩をしていた途中、偶然美琴に出会い、半ば強引にここに連れてこられた。そこで、上条と付き合ったという話を聞いた。 聞いた瞬間は喪失感にも似た、心が冷える様な感覚に襲われた。ああ、あの人はもう自分の隣に立つ事はないのかと。 けれど同時に、充足感にも似た、心を温める様な感覚に襲われた。ああ、この二人はちゃんと幸せになれるかもしれないと。 (これが複雑な心境というものなのでしょうか、とミサカは自分の考えが纏まらないのを自覚します) 上条の隣に立ちたいと思っていた筈なのに、美琴に上条の隣に立っていて欲しいとも思っていたのだ。 上条と美琴。共にシスターズに命をくれた存在だ。美琴は生をくれ、上条は生きる意味をくれた。この二人には他の誰よりも幸せになって欲しい。自分の思いであり、シスターズの総意でもある。 楽しそうなのだ。上条も美琴も、二人が一緒にいる時は喧嘩していても、騒がしそうにしていても、やはりどこか楽しそうなのだ。 二人を見ていて羨ましいと思う反面、ずっとこうであって欲しいと、ずっとこの二人を見ていたいと思えたのだ。 (複雑な筈ですが、この優しい気持ちは何なのでしょうか、とミサカは自分の内心に疑問を抱きます) 御坂妹は美琴の背中を見ながら、きゅっと、自分の胸を掴む。喪失感を埋めていく、優しい気持ち。上条と美琴を思うと湧いてくるこの気持ちは一体。 きっと、これでいいのだ。自分の生まれて初めての恋心は叶わなかったが、この優しい気持ちを信じよう。こんな気持ちをくれる二人が幸せにならない筈が無い。 この寂しい気持ちも、時間が経てば癒えてくれる。その時はきっと、ちょっとした笑い話に出来る筈だ。それまでは、時々は郷愁に駆られ、ちょっとだけ恰好を付けてみよう。 そんな事を考えていると、美琴がラッピングされた袋を手に戻ってきた。袋の中身はダイオプサイドに違いない。 「これでお買物は終了ですか、とミサカは確認を取ります」 「うん、ありがとね妹。急にこんなのに付き合わせちゃって」 「いえ、ミサカも楽しかったので気にしないでください、とミサカは社交辞令を言ってみます」 「アンタ、最後の一言で全部台無しよ……」 呆れている美琴の手に握られているダイオプサイドを、御坂妹は静かに見る。 きっと美琴は知っている筈だ。ダイオプサイドの宝石言葉を。御坂妹にもそうであったように、美琴にとっても上条はそうだったのだ。 自分が自分である為に、隣にいて欲しい人。 美琴にとって上条がその人で、御坂妹にとってその二人がその人だ。上条が自分の隣に立つ事が無いのはちょっと寂しいが、それでも、二人が一緒に歩けるのならそれがいい。 「さて、とー。妹、アンタこの後ってヒマ?」 「特に予定はありません、とミサカは正直に答えます」 「じゃ、なんか食べに行かない? 付き合ってくれたお礼に奢るわよ」 「もちろんです、とミサカはこの際だから高級品を所望します」 「あんまり高いのはやめてね?」 言いながら双子の姉妹は肩を並べて店を出ていく。 散歩をしていると色んな店を発見する。ただ、あの医者からのおこずかいではいける店は限られる。なので、前から行きたかった店に連れていってもらおう。 その時に話を聞いてみよう。上条と美琴の色んな話を。笑える話から、呆れる話やちょっと怒りたくなる話、他愛のない話を色々と。たくさん、たくさん聞きたい。 そして今度は最近の話を聞こう。上条と美琴が一緒に歩く事になってからの話を色々。その時はミサカネットワークを駆使してたくさんからかうのだ。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/居場所
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3345.html
惚れてまうやろ~! そのウチ唇でもキスしちゃうパターンの奴や! あま~い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ の続編です。 「うっし! じゃあ今日もヨロシクお願いいたします」「きょ、今日も……『アレ』やるの…?」「え? だって練習に付き合うって言ってくれたじゃねーか」「そりゃ…そう、なんだけどさ……」上条から目を背け、早くも赤面してしまう美琴。それもその筈だ。何せ今から、あの地獄のような【うれしくもはずかしい】練習が待っているのだから。確かに上条の言うように、「練習に付き合う」とは美琴から言い出した事だ。そうしなければ上条が自分以外の女性を相手に『練習』してしまっていたかも知れないし、何より美琴自身も、その『練習』を何度も味わいたかった。だが想定外の事が二つあった。それは『練習』の破壊力と頻度である。一発一発が非常に重く、心臓が爆発する勢いの衝撃があるというのに、それをほぼ毎日だ。学園都市で『七本の指』に入る実力者と言えども、内側からの攻撃(?)には流石に脆いのである。その上、日に日に『練習』の破壊力が高くなっている。それは上条が『練習』の成果として、徐々に練度が増している…というのも原因ではあるが、それ以上に美琴の『防御』も甘くなっているのである。何故なら―――「んじゃやるぞ? 『俺様キャラ』の練習」「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!!!」何故なら練習を重ねれば重ねる程、美琴は上条に惹かれてしまっているからである。慣れてしまえばどうという事もなくなるのだろうが、これに慣れるには相当の時間がかかりそうだ。 ◇数日前、上条は「モテたい!」との切実【アホみたい】な理由でキャラチェンジを試みた。転職先のキャラは、ナウなヤングギャル達のドキをムネムネさせるという、イケイケゴーゴーな『俺様キャラ』だった。これをマスターすれば、脚がグンバツでパイオツがボインなイカしたちゃんねーと、ザギンでシースーも夢ではないらしいのだ。「そ、それで今日は…ど…どんな練習するのよ…?」指をモジモジさせながら、ぼそっと呟くように尋ねる。すると上条は腕を組みながら「んー…」と考え、暫くしてからこう答えた。「今日は日常生活っつーか…普段通りの事をしながら、 その合間に『俺様』な上条さんを挟んでみようかと思います」「日常生活…?」言われてもピンときていないようなので、上条は例を出す。「例えば、いつもみたいに手を繋ぎながら一緒に帰るとするだろ?」「ななななっ!!?」例題がおかしい。まず、いつも手を繋いでる訳ではないのだが、上条はそんな事もお構いなしに美琴の手を取る。「けど、ここからが違うんだよ」「は! はわ! はわわわわわわっ!!!」ここ『からが』も何も、ここ『までも』既に違うのだが、残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。上条は目をグルグルさせている美琴の手をグイッと引っ張り、抱き寄せる。そしてそのまま、お互いの鼻先が付くか付かないかという距離で、とどめの一言。「いいから俺に付いて来いよ」美琴の顔が、「ボフン!」と音を立てて爆発した。しかしそれだけでは終わらない。上条の「とどめ」は二段構えだったのだ。普段の彼ならば絶対にしないであろうが、一つキャラが乗っかっている事で、多少の大胆行動にはブレーキが利かなくなっているようだ。上条は掴んでいる美琴の手にそっと―――「……チュ…」「っっっ!!!!?!?!!?」―――そっと口付けした。それはどちらかと言えば『俺様』ではなく『王子様』なのだが、残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。 ◇上条と美琴は、第7学区のふれあい広場にオープンしている、クレープハウス「rablun(らぶるん)」に来ていた。いつか美琴が先着100名様のゲコ太マスコット、その最後の一個を手に入れた【ゆずってもらった】、あのクレープハウスである。普段通りの事をする、と言っても、いつもはあのまま雑談しながら一緒に帰るだけなので、俺様キャラの練習も兼ねて、少しだけ寄り道したのだ。上条は右手に持ったチョコバナナを一口かじりながら、「ほら、美琴の分」左手に持っていたクリームチーズベリーを美琴に差し出した。「あ…あり、がと……」先程の二段構えの「とどめ」が相当効いたのか、美琴は未だにふわふわしていた。ポケ~っとしながらクリームチーズベリーパフェを受け取り、そのまま「はむっ」と口に含む。クリームチーズの濃厚な味わいとラズベリーの爽やかな酸味が口の中を―――なんて、今の美琴に味なんぞ分かる訳がなかった。広場のベンチにちょこんと座り、俯いたままモソモソそしゃくをしているが、この状況で脳が別のお仕事にいっぱいいっぱいらしく、味覚まで手を回してくれていないのだ。そんな美琴の現状を知ったこっちゃないと言わんばかりに、上条は俺様キャラを練習するべく攻めてきた。「おい美琴。お前のパフェ、一口くれよ」「………え?」ふいにそんな事を言われ、素っ頓狂な返事をしてしまう。「ええええええええええっ!!!?」一拍置いて、その言葉の意味を理解し、美琴は声を荒げた。先程の手にキスも中々どうして高度だったが、今回はそれ以上だ。何しろ今度は、「だだだだって! これ! わ、わわ、私もう一口食べちゃったしっ!!!」間接キスだから。手にキスよりも簡単ではないか、とお思いの方も多いだろうが、しかし考えてみてほしい。手にキスはロマンチックだが【ケツがかゆくなるが】、キスした部分が口に付く訳ではない。対して間接キスは、自分が口を付けた部分に相手も口を付ける…つまりイヤらしい言い方だが、『粘膜接触』が起こるのだ。自分の唾液が、少なからず相手に感染るのである。以前、佐天とは何の気なしにそれをやった訳だが、相手が上条では話が違う。友人なら気兼ねはしないが、好きな人が相手では、その意味合いが大きく変わるのだ。が、上条は相変わらず気にした様子もなく、「いいんだよ。お前の物は俺の物、俺の物は俺の物なんだから」俺様の代表格でもある、ジャイアニズムを披露する。「だから美琴自身も俺の物な」「んなっ!!!?」しかも、こんなとんでもない事まで言ってくる始末。一度冷静になって、その言葉の意味を深く考えてほしい物である。上条は、自分で言った「美琴自身も俺の物」発言で固まっている美琴を横目に、当たり前の様に彼女が握り締めているパフェをかぶりつく。「…うん! こっちも美味いな」「がっ! が、かっ!!?」上条の言葉が耳に届いているのかいないのか、固まったまま口をパクパクさせている美琴。上条も流石にマズいと思ったのか、練習中の俺様キャラを解く。鈍感な上条は、今の美琴の態度を不機嫌な状態だと思ったようだ。「いや…悪かったよ。確かに調子に乗りすぎた。 ほら、俺の分のも一口食っていいから機嫌直せって」キリッとした表情から一変して、いつもの気だるげな表情に戻る上条。少し困り顔をしながら、自分のチョコバナナパフェ(勿論、食べかけ)を差し出してくる。「っっっ!!!!?!?!!?」それはつまり、間接キスである。しかも今回は先程と違って、「される側」ではなく「する側」だ。そして唾液は「感染する側」ではなく、「感染される側」になる。その瞬間が、この日の美琴にとって最後の記憶となったのだった。あの後美琴がどうなったのかは、上条ただ一人だけが知っている。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1773.html
スレチガイ 「○○○疑惑」「強まる疑惑」の続きのような違うような感じです。 「年齢逆転パラレル」の設定そのものは変わっていませんが、諸注意(?)を。 その1)作中時間は前回のものから半年ほど経過した設定です。 その2)その時間の経過により、美琴が色々と吹っ切れた状態になりどうにかして上条さんを堕としたがっています。 その3)上と同じ理由で、気づいたら美琴の事が気になっている上条さん。けれどその理由がわからない。 「つっかれたぁ………」 本日も小萌先生の愛ある補習を終えた上条。 色んな事情が重なり溜りに溜っていた補習を今日一日で片付けるという、超強行軍により疲労困憊もいい所だ。 おかげで折角の土日の休みも明日の日曜だけにになってしまった。「うへぇ……、もう真っ暗じゃねぇか……」 呟きカバン片手に項垂れるその姿は、普段の不幸のせいも相まって中学生にして何処となく哀愁漂う背中となっていた。 補習を終え、その疲れ切った体で夕食を自炊する気にはなれず、ファミレスで食事を済ませた頃には外はすっかり真っ暗だ 休日を朝から丸々1日勉強に使いつくすという不幸を骨身の髄まで味わっていた上条は油断していた。今日はもう不幸は無いと。「……………………………」 しかし、少年にとって不幸とはこの上なく身近な物である事は、もはやある種の摂理と言えるだろう。 現に、目の前に『ソレ』があるのだから。 目を疑う。目の前の光景はいくらなんでも目を疑う。 目の前ではビリビリ姉ちゃんが道のど真ん中で倒れていた。そしてその隣ではビリビリ姉ちゃんそっくりな人が「み、美琴ちゃーん!? こんな所で寝ないでちょうだーい!?」と慌てふためいていた。「お、そこを行くのは当麻君! いい所に現れた! ちょっと手伝って!」「…………………何してんの美鈴さん…………」 以前、ちょっとした事で面識を持ったビリビリ姉ちゃんそっくりの美鈴さん。 唯でさえ疲れている上条はさらにげんなりした様子でとりあえず尋ねる。「いやぁ、美琴ちゃんにちょっとお酒飲ませたら酔っ払っちゃって……」「アンタ娘に何させてんの!?」「久しぶりに会ったからつい♪」「つい♪ じゃねぇ!」「って事で任せた少年! 私もう帰らないと!」「ってちょっと!? おーい!?」 脱兎の如くその場から離脱する美鈴の背に叫ぶが、さも当然のように見向きもせずタクシーを捕まえてどっかへ行ってしまう。 残ったのはこれ以上ないほどげっそりした上条と、酒のせいで顔を真っ赤にして上条に抱きつきながら「うへへへ……」とにやけている美琴。「どうすんだよ、コレ……」 抱きつかれながら『コレ』をどうしようかと途方にくれる。 普段なら心ときめくイベントなのだろうが、この状況でも同じ反応が出来る訳無かった。「ビリビリ姉ちゃんの寮の場所なんか知らないし、空間移動の姉ちゃん呼ぼうものなら俺が殺されそうだし。………………詰んでない? コレ」 他に何か無いかと元々無い上に使いきった頭をさらにフル稼働させるも、何も思い浮かばない。 ガシガシと乱暴に頭をかいてる所に、ようやく美琴が行動を開始した。「こらぁ、らきんちょ~」「呂律が回ってないし酒臭い……。美鈴さん、ホント何してんだよ……」「わらしのことはぁ! おねえちゃんとよべといっられしょうがぁ!」「あーはいはい、わかったよお姉ちゃん」「んふふー、よろしいー♪」 と今度は上機嫌になって頬を擦り寄せてくる。 酔っ払いは好きにさせておくのが結果的に被害が少ない。以前、美鈴さんで美琴と一緒にそれを思い知った上条だった。「それはともかく、お姉ちゃん? 帰れる?」「おー、かえれるぞー」「すんごいフラフラしてるんですけど……。って、あれ?」 千鳥足ながらも歩いている美琴が進んでいる方角は上条の寮の方向。 酔っ払いは何をするか分からない。何となく嫌な予感がしつつ尋ねる。「お、お姉ちゃん?」「んー? らによー」「お、お姉ちゃんの寮もそっちなの……?」「あぁにいってるのよ~。アンタのりょーにかえるんでしょうが~」「……………………………………………………はぁ」 やっぱりなー、そんな気がしてたんだーあははー。とすっかり投げやりな上条少年。 その間も美琴はフラフラと、しかし確かに上条の寮の方へと歩いている。「にゃ!?」 その途中、まるでギャグの如く電柱に正面衝突し、美琴は尻もちを付いて倒れた。「あによー! でんちゅうのくせにー!」 酔っ払いとは何故かくもこんなに面倒なものなんだろうか。 電柱にまで喧嘩を売り始めた美琴にため息しか出ない。 疲れ切った表情のまま、彼女に歩み寄り傍らにしゃがみ込む。「お姉ちゃん、大丈夫?」「だぁめー」「どっか捻った? ちょっと見せて?」「だめだからぁ、だっこして?」「んー、どこも捻ったようには…………は?」「だっこ♪」 突然の要求に上条が固まる。 無邪気な顔で手を広げて抱っこを要求してくるビリビリ姉ちゃん。 普段の雰囲気や威厳と言った物が微塵も感じられない。 固まっている上条に何を思ったのか、酔っ払いは酔っ払いなりに訂正した。「じゃあ、おんぶして♪」 そういう事じゃない。「おーんーぶー! しーてー!」「どわぁ!?」 ついにはだだをこね始め、上条の背後からのしかかり彼を押しつぶす。 不意の衝撃に為す術なく、あっさりと押しつぶされる上条だが、その上では、「いえーい! みことちゃんのかちー! さぁおんぶするのだー!」 と勝手に騒いでいた。 押しつぶされた体勢のまま、上条は自分の思考がひどく短絡的になっている事を自覚していた。 と言うと小難しく聞こえるが、要は腹を括った。「……、はぁ。わかったから。おんぶするからまずどいて」「やったぁー♪」 思いのほか素直に上条の上からどく美琴。 服に付いた汚れを払い落してから、上条は美琴の前にしゃがみ込む。今度はおんぶをするために。「ほら、おんぶするから」「いえーい♪ ガキンチョだいすきー♪」「っ!? ……、い、いいから立つぞ!」 相手は酔っ払い相手は酔っ払い。自分にそう言い聞かせて逸る鼓動を押さながら立ち上がる。 少しはドキッとしたが、所詮は酔っ払いの戯言。何も意味はない。 しかし気のせいか、顔が凄く熱い。「おー! めせんがひくいー!」「余計な御世話だわ!」 失礼な事を言う酔っ払いに怒鳴り返すが、思うにこの状況はすごいんではないだろうか。(か、顔が近いって姉ちゃん!!) 美琴は上条の肩に顔を乗せて「んふふー♪」ととても上機嫌だった。 さっきは頬を擦り寄せられていたというのに、何故か今はとても気になり、視線が奪われる。 上気し赤く染まっている頬。眠そうにまどろんでいる顔。 そして思わず目が行ってしまう。(綺麗な唇だなぁ…………) まるでCMか何かの唇を生で見ているようだ。見ただけで相当な弾力が伺える潤った唇。 前を注意しつつも、どうしてもそれに意識を取られてしまう。 無意識に顔が近付いて行く。 ついに動いていた足が止まり、往来の真ん中にいるとい事も忘れ上条は美琴の唇に意識を支配される。 ただ、その唇の感触を知りたい。確かめたい。 少年の頭は徐々にそれに支配されていった。(触ったら気持ちいいのかな……) 相手の息遣いが感じられる距離。 酔っているからだろう。些か荒い呼吸を肌に感じる。向こうも上条の呼吸を肌に感じくすぐったそうにしている。 二人の鼻の頭が擦れるようにぶつかり交わり、二人の距離はより無くなっていく。 一ミリ。また一ミリと僅かだが確かに無くなっていく隙間。 まるで熱病にうなされているかの様に熱くなっていく上条。苦しそうであり、けれどどこか充足感にも似た表情を見せる。 風が吹いただけで埋りそうな程しかない隙間。しかし、だというのにその隙間がまるで決定的な溝だとでも言う様に、何故かそれ以上狭める事が出来ない。(な、何でかな……。これ以上いったら、なんか、ダメになる気がする……) 確かめたい。美琴の唇の感触を確かめたい一心だのに、何故か自分の中の何かがそれを拒む。 己の中の欲求と感情がせめぎ合い、僅か1ミリしかないその溝を飛び越える事が出来ずにいた。「くしゅんっ」「っ!?」 突然のくしゃみだったが、寸での所で美琴の鼻がむずむずいっているのに気付き、互いの唇が触れる事は無かった。 それで急に我に帰り、ハッとして美琴から顔を離す。(何やってんだ俺……。相手は酔っ払いだろ…………)「……………この意気地なし………………バカ…………」「……ん? なんか言った?」「んー? どしたガキンチョー?」「……、やっぱなんでもない」 嫌悪感にも似た罪悪感が心に降り積もり、ちょっとは紛れないかと深く重いため息を吐く。 ついでに美琴の身体が下がってきたので、体勢を整える。と、美琴の身体が小さくピクッと確かに反応した。「お尻触ったな~。えっち~」「な、なぁ!? さ、触って無い触って無い!」「うーそだぁ。触られたもーん。えっちー」「ぐえ……、ぐ、ぐる、じい……」 急に後ろから首を絞められる。 酔っ払いのくせに力が強く、頭を振る程度では腕は外れないだろう。 が、それ以上に問題なのは、「お、お姉ちゃん……、く、苦しい……!」「じゃあ早く『お尻触ってごめんなさい』って言うのー」「い、言う! 言うから離してー!」「先に言いなさいー」「(い、言えって言われたって、背中が! 背中がぁ!?)」 今の今まで全力を振り絞って無視してきた上条の努力が今水泡に帰した。 態度は怖い(上条談)が、容姿・スタイル共に美琴は相当に優れている。あの母ありにしてこの子あり、という言葉が見事に当てはまるほどに。 つまり、高校1年生にして誰もが羨むスタイルという事である。「早く言うのー!」 そんな上条の心境など知りもせず美琴はさらに身体を押し付けてくる。 美琴マスターを目指している黒子(道は9割9分9厘ほど崩れている)曰く「中3から高1に掛けてミカンが特大オレンジになりましたの」が上条の背中と美琴の間で押し潰されていた。「(さっきからぐにゃふにゃぽふと背中で幸せな感触がー!?)」「はーやーくー!」「わ、わかりましたっ!」 思春期真っただ中の少年にこれは厳しい。 これ以上は何か色々と大変な事になりそうだったのでとりあえず勢いに乗せて言う。 上条さんは中学生ながらにして紳士を目指す男の子なのです。えっへん。 説得力の有無は、まぁ別として。「おしりさわってごめんなさい! だから離して!」「よく言えましたー♪ 許しあげましょうー♪」「……ありがとうございます………」 満足した顔で、唯でさえげんなりとしていた顔がさらにげんなりとした上条の頭を撫で、今度は自然体で体重を預ける。 まだ背中に感触は感じるが、さっきのように押し付けられていないのでまだマシだ。 だというのに、(…このがっかり感はなんでせう……?) 何とも言えない、けれど確かに残念さを感じている自分。 その得も言われぬ感情を抱きながら、少年は酔っ払いを自分の部屋まで運んでいく。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― そして場所は上条の部屋。 部屋まで運ぶのまでに誰かに見られないかとヒヤヒヤしたが、時間帯もあって人に見つかる事は無かった。 で、その運ばれてきた酔っ払いは、「ふかふか~♪」 ベッドを占領していた。 掛け布団の上から寝っ転がり、枕に顔を埋めて体全体でベッドの感触を堪能していた。 そのベッドの持ち主は、照れたような恥ずかしい様な、どちらにせよ「気にしてませんよ? ええ気にしてませんとも」と、とても気になっていた。(俺のベッド、なんだけどなぁ……) 大人ぶっていてもやはりそこは男の子。 自分のベッドで女の子が寝ていたら気にならない訳がない。ましてや、ただ寝ているだけならまだしも、体全体でその感触を確かめようとゴロゴロと動きまわっている。 そして上条が気になっているのはそこだけではない。(姉ちゃん、自分がスカートだって覚えて……ないよなぁ……) いくら短パンを履いていようとも、スカートから伸びるその足にどうしても目が行ってしまう。 少女らしらの抜けきらない艶やかさがまだ足りない瑞々しい、すらりと長く伸びたその足は、男の子を魅了するには十二分過ぎた。(なっげぇ足……。モデルみてぇ……) 実際モデル顔負けのスタイルだろう。 ぽーと、実に間の抜けた顔で眺める上条。とはいえ、それも仕方ない。 普段とのギャップ、そして先ほどまでの経過もあり、上条は美琴の一挙手一投足に気が向いていた。「うーん……」 と、ベッドの上でいつの間にか眠っていた美琴がその身を起こした。 ぽやーとした顔のまま、徐にブレザーのボタンに手を掛ける。「ね、姉ちゃん……?」「熱い……」「わっ!?」 言いながらブレザーを脱ぎ捨て放り投げる。 投げられたブレザーは図ったかのように上条の顔に直撃し、数秒その視界を奪う。 突然の事に慌てて顔にかかった物を、床に叩きつけるように乱暴に取り除ける。「っ!?」 が、それもすぐに後悔した。こんな光景があったのなら取るんじゃなかったと。けれど、取らなかったら取らなかったで後悔しそうだとも、心の正直なところが反論していた。「おいおい……」 美琴は中に着ているシャツと短パンだけでベッドに寝っ転がっている。 熱い、という言葉通りか、中のシャツのボタンも上の数個は開けられており、肌色がその隙間から覗き、腹部からも肌色が覗いていた。 わざわざ見せつけるかのように横向きになり、腕と身体にと押し潰されシャツが内側から無理に引き延ばされ、ボタンが取れそうになっていた。「うーん……、とーまぁ……」 瞬間、何か獰猛な物が顔を覗かせた。「なぁ、姉ちゃん……」 聞こえてはいないだろう。だがそれでも口を吐いた。 普段からは想像もつかない、力強さとはまた違う、けれどとても荒々しい声。 その声とは裏腹に行動はゆっくりだった。だがそれが怖い。 ゆっくりであるからこそ、爆発までため込んでいる。そんな感じだ。「俺の事ガキンチョだなんだと言ってるけどさ……」 ベッドの傍らに立ち、美琴に影を作る。 目を閉じている美琴には分からないが、仮に開けていてもその表情はわからなかっただろう。 顔は見えているのに、その表情が見えない。 男の子の顔にも見え、男の顔にも見える。それでいてどちらにも見えない。 そして、とても痛そうだった。「俺だってさ……」 美琴をまたぐ形でベッドに膝を付き、彼女の肩を掴んで乱暴に上を向かせる。 よほど深い眠りにあるのか、美琴はそれでも起きる気配はなかった。 それを気にした素振りを見せず、上条は美琴の頭の左右に手を付き、覆いかぶさるようにその身体を徐々に下げていく。「男なんだぞ……?」 数センチしかない隙間の中、小さく呟く。 思春期のくせに、いや、思春期だからこそ誰よりも男と女の違いを意識し、また誰かに自分と周りの差異に気付いて欲しく、自制がまだ甘いその年齢だからこその呟き。 ここで一歩を踏みこめば上条に確実に他との差が出来る。思春期の少年が望む、他者との決定的な違いが、今、目の前にある。 だけど……。「……ッ。…………くそッ!」 毒づきながら上条はベッドから下りる。 新しい掛け布団を取り出し、美琴の体に静かにかける。 そのまま上条は浴室へ引っ込む。「……………………」 服を着たまま冷たいシャワーを頭からかぶる。 なんでもいい。何でもいいから今は頭を冷やしたかった。「……ッ!」 そのまま壁に自ら頭を強打する。 少し血が出た。水と一緒に視界の中央を流れる血を感じながら思い出す。 とても、幸せそうな美琴の寝顔。「…………ッ」 ギリッ、と口の中から歯が強く擦れる音が聞こえた。 上条は確かに他の人との何かしらの差を求めている。彼女に、他の男とは違う目線で見て欲しいから。 でも、いくら差が欲しいからと言って『コレ』ではダメだ。 欲しいのは彼女の、自分だけを見てくれるその優しい目。少年が求めているのは『コレ』じゃない。「…………ごめん…………」 誰にも聞こえない二つの声は、誰にも聞こえないまま奇しくも重なり空気に溶けて消えた。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3476.html
ほろ苦いチョコでほろ甘く とある学生寮の一室のキッチン。そこで美琴は、目の前のチョコレートを湯煎で溶かしながらヘラでかき混ぜていた。チラリと携帯電話の液晶画面を見れば、そこには2月13日という今日の日付。そう、明日はバレンタインデー。恋する乙女【みこと】にとって、ある意味で決戦の日なのだ。「い、いや、べべ、別にアレよ!? 私としてはアイツにチョコとか贈るつもりはないんだけど、 でもホラ、他にも色んな人に配るのに、アイツにだけ渡さないってのも逆に変じゃない!? それこそ気にしてるみたいだし…って、ももも勿論、気にしてなんかないけどねっ!!?」そう言い訳したのは、いつも通り自分自身に…という訳ではない。隣には、妙にほっこりした笑顔の初春と、溶けたチョコを見つめながら指をくわえる春上の姿。そうなのだ。ここは柵川中学の学生寮、初春と春上の春々コンビが暮らす部屋なのである。「分かってますって。でも他に配る用【わたしたち】のはお店で買った物なのに、どうして上条さんには手作りを?」「うっ!!? そ、それは…その…」「美味しそうなの…」真っ赤な顔で言いよどむ美琴と、マイペースに「くぅ~」とお腹を鳴らす春上。そして初春はと言えば、佐天ほどではないにしろ、やはり多少なりとも探りを入れてくる。美琴は針のむしろ状態に冷や汗を流しながら、良い言い訳がないかを考える。(う~っ! これじゃあ、佐天さんの所に行かなかった意味がないじゃないの…!)美琴の暮らす常盤台中学の学生寮にも厨房はある。しかしレベル5の第三位として、ただでさえ注目を浴びやすい美琴が、そんな所でバレンタイン用のチョコなど作っていたら、面倒な事になるのは必至だ。なので以前、上条のお見舞いにクッキーを手作りした際は、佐天の部屋のオーブンを借りたのだ。だがそこで佐天からウワサの彼氏さん【かみじょう】について散々弄られ、テンパった美琴は友人【さてん】の部屋を散らかしてしまい、挙句の果てには完成したクッキーも上条に渡せず終いであった。…最後のは佐天が悪い訳ではないのだが、とにかくその時のトラウマがあるので、美琴は佐天の部屋でチョコを作るのをやめておいたのだ。しかもその時は佐天も上条の事をよく知らなかった為、(アレでも)そこまで追及する事はなかったのだが、今は違う。大覇星祭で佐天も上条と関わりを持ち、その人となりを知り、おまけに美琴との付き合いも長くなった為、弄りにも遠慮がなくなった。そんな状況で「アイツにバレンタインチョコ作るから、キッチン貸してくれない?」なんて、燃料を投下すれば、たちまち佐天は目をキラキラさせて、根掘り葉掘り質問攻めされるだろう。それを思えば初春からの質問など、ただの雑談レベルだ。しかしそれでも落ち着いてチョコ作りに専念させてもらえないのは事実である。美琴は心の中で、自分をこんな状況に追いやった者へと理不尽な悪態をつく。(だああ、もう! それもこれも全部アイツが悪いのよ! あの馬鹿~~~!)本人が居たなら、間違いなくこう言っていただろう。「不幸だ」と。 ◇美琴が初春達の部屋を訪れる更に数日前。美琴は毎日の日課と化した上条の学校の校門前の待ち伏せ(それでも彼女は偶然と呼ぶ)を決行し、本日も上条と下校デートをする。だがその日はただ談笑するのが目的ではなかった。その目的とやらを中々切り出せずに妙にソワソワしていた美琴に、上条が声をかけた。『…? どうしたんだ? トイレ行きたいならそこのコンビニに』素っ頓狂でデリカシーの欠片もない心配に、美琴は思わず電撃をぶっ放した。それを右手で防ぎながら、上条は涙目で訴える。『な、な、何だよ!? 俺、何か悪いこと言ったか!?』『うっさい! 人が真剣に悩んでるってのに変な事聞くからでしょ!?』すると、上条の目つきが変わった。『真剣に悩んでるって…マジで何かあったのか?』『はぇっ!? あ、や…その……』上条としては、絶対能力進化計画の時のように、美琴がまた無茶な事でもするんじゃないのかと危惧したのだが、実際は違う。美琴はただ、上条に作るチョコの調査をしようとしていただけなのだ。チョコの種類や甘さ、作り方やトッピングなど、上条の好みに合わせようとしているのである。だが言い方を間違えればそれが本命チョコなのだとバレてしまう(鈍感王・上条に限っては、その程度でバレるとは思えないが)かも知れないので、どのように切り出すのか悩んでいた、という訳だ。それだけの事を真剣に悩む辺りに、美琴の恋愛経験値の低さが垣間見える。それと関係ない事だが、上条が本気で心配してこちらを見つめるシリアス顔に、美琴はキュンキュンしてしまったりもしていた。もう、手の施しようが無いのである。『だ、だだ、大丈夫だから! そういうんじゃないから!』『本当か? 何かあったら俺に言えよ。いつでも駆けつけるからさ』『~~~っ!!!』この男は、相手が誰でも駆けつけるのは美琴も分かっている。分かっているのに、その言葉は美琴の胸の奥をチクチク刺激してくる。やっぱりこの男は、本当にズルい。そんな事を言われては、期待してしまうではないか。だから美琴も、一歩だけ、ほんの一歩分だけ勇気を出す。『あ……あの、さ…な、何かその……あ…甘い物とか食べたくない…?』ただしその一歩は、常人からすると半歩分にも満たなかった。上条の好みのチョコを聞き出すにしては、随分と遠回りな質問である。『甘い物? あー…アイスとかか? この時期【2がつ】だとシャリシャリ系より、ねっとり系の方がいいよな。チーズ味とか』『ち、違う違う! もっとこう…黒くて! あと基本的に常温で食べるヤツ!』『え? じゃあ…おはぎとか、かりんとうみたいな?』『何で和菓子なのよ! 他にあるでしょ!? もっとメジャーなのが!』『………コーラ?』『それ飲み物おおおおぉぉ!!! てか何で「黒くて」の部分だけ取ったのよ! アンタはコーラを常温で飲むんかいっ!』中々チョコへと辿り着かない上条に、美琴のイライラゲージはMAXだ。原因は美琴にもある気はするが、そんな事を感じさせないくらいのマシンガンツッコミである。『あの、アレよ! カカオ的な物を加工して出来る、何か「明治」って感じの!』もういっそ、素直にチョコレートと言えばいいんじゃないだろうか。そもそもカカオ的も何も、カカオ以外の他に一体何があるのか。流石の上条も、「カカオ」と「明治」という二つのキーワードによって、ようやく気付いた。ロ○テからしたら誠に遺憾である。『ああチョコか…』すると上条の顔に影が差した。美琴は一気に不安に駆られる。『えっ!? チョ、チョコ嫌いなの!?』『ん…いや、そうじゃねーんだけど……あまりチョコの事は考えないようにしてたんだ』『どうしてよ!』すると上条から、意外な言葉が飛び出してきた。『だってもうすぐバレンタインだろ?』『ふぃあああああい!!!』まるで美琴の心を見透かしたかのような前フリ。思わず美琴は変な声を出してしまった。だが勿論、上条が美琴の事情を察したなどではない。そこまで気が利くような性格ならば、とっくに美琴の気持ちにも気付いているはずである。 『いやさぁ。最近クラスの中が妙にソワソワした空気なんだよ。 で、何でかな~って思って姫神…って知らないか? 俺のクラスメイトなんだけど。 とにかく聞いたら顔を赤らめて「今週は。バレンタインがあるから」ってさ』『……………』その姫神という人は確かに知らないが、その反応からして、その人も上条にチョコを贈るつもりなのだという事は美琴にも分かる。というか吹寄を除く上条のクラスの女生徒全員が上条にフラグを立てられており、つまりクラス中の皆が皆、上条にチョコを渡すつもりなのである。そして上条のクラスの中が妙にソワソワしていたのは、冒頭で美琴がソワソワしていたのと全く同じ理由だったりする。『ふ~~~~~ん…?』美琴の機嫌が一気に悪くなる。唇を尖らせ、ジト目で上条を睨んだ。だが自分も上条にまんまとフラグを立てられた人の中の一人なので、文句は言えない。そんな様子に気付くはずもなく、上条は続ける。『けど俺みたいなモテない野郎代表としては、憂鬱な風習【イベント】な訳よ。 当日はどうせ一個もチョコ貰えないだろうから、 チョコの事自体を今日まで考えないようにしてた……って、何ですのんその顔は?』『………別に』先程とは違った意味でジト目で睨んでいた美琴。上条の言葉にツッコミ所が満載だったからなのだが、それを言えないジレンマである。この男、一体どこまで鈍感だと言うのか。上条と美琴の恋が中々進展しないのは、卵【どんかん】が先か鶏【ツンデレ】が先か。それは誰にも分からない。しかし怪我の功名とでも言えるのか、この流れならば自然に聞き出す事ができる。元々美琴は、これを質問しようとしていたのだから。『それで…アンタはどうなのよ? ほ…欲しいの…? チョコ…とか…』『そりゃまぁ、貰えるモンならいくらでも欲しいさね。 けどさっきも言ったように、俺なんかにくれる女の子なんていないだろうし……はぁ…』『そ、そ、それならっ!!! わわわわた、わた、わたたしがアンタに、あ、あ、あ、 あげてやってもいいんだけどっ!!!?』『……………へ?』あまりにも予想外の言葉に、目が点になった上条。一般的な女性ならばただの日常会話程度の発言だが、美琴からすれば大胆すぎる発言である。『ももももちちろんぎ義理なんだけどねっ!!? そももそも私はいろろんなな人にくく配る予定だからそそのつつついでだしっ!!! だかからそのあのアアアアンタのす好きなチョココのタイプをおしおし教えなさいよっ!!!』美琴には、とりあえず一旦落ち着いていただきたものだ。どもりまくっていて何を言っているのか非常に聞き取りにくい。しかも好きなチョコのタイプとか、微妙に言い回しがおかしかったりする。だがそんな美琴の言葉を何故か理解した上条は、『うおおおおおぉマジでええぇぇぇ!!!?』と、まるで宝くじでも当たったかのようなオーバーリアクションで喜んだ。キャラにもなく「ヒャッホー!」とか言いながら拳を突き上げ昇龍拳したり【とびあがったり】、美琴の両手を握ってブンブン振り回したり、思いっきり抱きついたりと、何ともアメリカンスタイルな感謝の仕方で気持ちを伝えたのだ。高々チョコ一つ。されどその一つは、有るのと無いのでは雲泥の差である。一方で、こんな雑な流れで手を握られたり抱き締められたりした美琴は、心の準備が間に合う訳もなく、ただただ体を硬直させた。『がっ、がが!!?』口をあぐあぐと開いたまま、ショックのあまり瞳孔も開きかける美琴。そんな美琴を置いてきぼりにしたまま、上条は先程の質問に答えた。『貰えるんなら好き嫌いなんて贅沢言わねーよ! 駄菓子屋とかで売ってる5円のチョコでも多分感動して泣いちゃうから!』それは流石に自分を卑下しすぎではないだろうか。もしそれが事実ならばこの男、チョロいのかチョロくないのかよく分からなくなってしまう。『…あっ、でも女の子からの手作りってのに憧れてますんで、出来れば市販の物ではなく、 ミコっちゃんのお手製だと嬉しいな~、って上条さんは思ってみたりしますです!』そう告げると、上条はスキップしながらその場を後にした。よほど楽しみだと見える。そして固まったまま取り残された美琴は時間差で。『……………ふにゃー』 ◇「だからアイツが悪いのよっ!!!」長い長~い回想を終えた美琴は、湯煎しながら大声で叫んだ。あの馬鹿【かみじょう】が「お手製だと嬉しい」などと言わなければ、少なくともこんな苦労はしなかったはずだと。どちらにしろ、遅かれ早かれ手作りする予定だったというのにである。「大体あの馬鹿、貰えれば何でもいいとか… こっちはアンタの口に合うように色々悩んでたっつーのにもう!」文句を言いつつ、一心不乱にへらをかき回す美琴。自分だけの現実を確立した彼女が、自分だけの世界に浸っている。故に忘れてしまっていたのだ。両隣に、初春と春上が居るという事を。その事を思い出した時には、色々と都合の悪い事を独り言【じはく】で洩らしてしまった後だった。 ◇そんな事があった翌日。今日は2月14日、バレンタインデー当日である。あの後なんだかんだでチョコレートは完成し、綺麗にラッピングまで済ませた。上条は好き嫌いは無いと言ってはいたが、やはり男性には甘さ控えめの物が良いだろうと、ボックスの中身は砂糖の量を抑えたガトーショコラとなっている。勿論美琴の手作りではあるのだが、しかし如何せん完成度が高すぎて、言われなければ、市販されている物なのだと誰もが勘違いする事だろう。そこまでして真剣に作ったチョコレートケーキ、しかも包装まで完璧とくれば、後は当然ながら上条本人に渡すだけだ。だけなのだが、ここで大きな落とし穴がある事に気付く。「………きょ、今日って日曜日だったわ…」そう。今年のバレンタイン…つまり本日は、全国的に日曜日なのだ。となればいつものように、放課後に偶然を装って上条に会いに行く事は出来ない。学校の校門前ならば通りかかったという理由でギリギリ済ませられるが、学生寮のしかも上条の部屋までわざわざ足を運んで、「偶然通りかかった」は流石に無理がある。ならば素直にチョコレートを渡しに来たと言って赴けば良いと思う方も多いだろう。そもそも上条にチョコをあげると約束したのだ。今さら何をためらっているのかと。だが忘れないでいただきたい。彼女は学園都市内で一二を争うツンデレなのだ。そんな事が出来るのなら、こんなに悩まずにとっくに渡している。というかそんな事が出来るのなら、そもそももうちょっとマシなアプローチもしていただろう。なので結局どうすればいいのか分からずに、学生寮の前でウロウロしている。上条の寮【ここ】に来る前に配った、友人知人宛ての市販のチョコ【ともチョコ】のように、「ハッピーバレンタイン!」とでも言いながら手渡しするのがベストなのだが、友チョコと本命チョコでは勝手が違いすぎる。義理チョコですら渡しにくいというのに。(う~~~っ、どうしよ…どうしよ…)上条の住む学生寮の前を行ったり来たり。だが考える事に集中しすぎてしまい、足元の注意力が散漫になってしまう。この直後、美琴はそれを思い知らされ、同時に死ぬほど後悔する事になるのだった。「えっ―――」上条の部屋の内部から、彼の不幸力が溢れ出ていたのだろうか。ふいに美琴は、特に段差も無く平坦な場所で、事もあろうに躓いてしまう。持ち前の運動神経と反射神経で、無様に転ぶ事はなかった…のだが。「…あ……」無様に転んだ方がまだ良かった。そう思える程の事態。手作りガトーショコラが入った箱は、美琴の手から離れ、グシャリと音を立てて下に落ちてしまった。きっと味に変化は無い。しかしおそらく、中身は元の原型を留めていないだろう。以前上条が入院している時にお見舞いでクッキーを持って行った際、上条は「不器用なキャラが不器用なりに頑張ってみたボロボロクッキーっていうのが…」なんて語っていたが、せっかく綺麗に出来たのにこんなのはあんまりである。一瞬にして全てが台無しになり、先程まで浮かれていた自分を美琴は呪った。それでも頭の中では冷静に、新しい物を作り直すべきか、それとも時間が無いから市販の物を買うべきかで演算をし始める。しかし感情は―――「………あれ…?」思わずポロリと、涙が溢れ出てしまっていた。グシグシと目を擦りながら、チョコレートケーキ『だった物』が入った、角の潰れた箱を拾う。しかしそのまま立ち上がってその場を離れようとしたその時、ヒーローが姿を現した。「あっ! 美琴ー、待ってましたよー!」空気を読んだのか読めていないのか、このタイミングで上条が部屋から出てくる。約束通り女の子【みこと】がチョコを届けに来てくれたのだと思っている上条は、満面の笑みだ。ちなみに、結局この日に上条へチョコを渡す女子は一人も居なかった。実際にはチョコを渡そうとした者は『最低でも』一万人くらいは居たのだが、上条の不幸体質によって全て阻まれ、結果的に収穫ゼロだったのである。もっとも上条は最初から誰からも貰えない(美琴以外)と思っていたので傷は浅い。大ダメージを受けたのは、むしろ渡しそびれた女の子達の方だったりする。 「やー、何か物音がしたから美琴だと思って外出てみたら、やっぱり美琴だったか!」事情を知らない上条は、照れ照れしながら暢気に話しかけてくる。しかし美琴の絵に描いたような落ち込みようを見て、「あ…あれ? 美琴…さん? どうした……ってか泣いてんのかよ!? えっ、ど、どうかしたのか!? あの、びょ、病院行くか!?」上条も心配して狼狽しだす。こうなる事が分かっていたから、美琴は上条が顔を出す前にここを離れようとしていたのだが、見つかってしまったのなら仕方がない。美琴は鼻をすすり嗚咽交じりで説明をする。「アンダに…ヂョゴ…ひぐっ…作゛ってきだん…ひぐっ…だげど…えぐっ… ざっぎ…躓゛いぢゃっで…ぐすっ…中゛…崩゛れぢゃっで…ぜっがく…ぐすっ… 綺麗゛に゛…でぎだの゛に゛…えぐっ…全部…ダメ゛に゛…な゛っぢゃっで…」「……………」黙って美琴の言葉を聴く上条。確かに美琴の手には、潰れたケーキの箱がある。ボロくはなっているが、ラッピングもされており、本来の姿ならば立派なケーキボックスだったであろう事が窺える。上条は無言のままその箱を取り上げると、そのまま―――「…うん、美味い! やっぱミコっちゃんは料理も上手いんだな。 いや、ケーキ作りは料理とはちょっと違うか? まぁ、美味いんだしどっちでもいいか。 あー、でもお茶は欲しいかな。こういうのには紅茶がいいのか? それともブラックコーヒーの方が合うのかな?」「………はぇ?」そのまま開けて、その場で崩れたガトーショコラを手掴みでムシャムシャ食べていたのだ。キョトンとする美琴に、上条はふんぞり返りながら答える。「あのなぁ。上条さん家の貧乏度数とMOTTAINAI精神をナメんなよ? 美琴はコレ捨てようとしてたんだろうけど、こんなに美味いモン一回落ちた程度で、 勝手に捨てられてたまるかよ。ましてや外装が落ちただけで中身は無事じゃねーか。 ってかそれ以前に俺にくれるチョコだったんだろ? 俺の許可無く捨てんなっつーの」それは上条なりに気を使ったのか、それともただの本心なのか。それは美琴にも分からない。しかしこの言葉で、美琴は思ってしまった。「ああ、やっぱり作って良かった」と。上条の為に、上条の事を考え、上条に美味しく食べてもらうように、作って良かったのだと。美琴は鼻をすすりながら立ち上がり、いつもの調子で軽口を叩く。「あ…当たり前じゃないの! そもそもアンタにあげる奴なんか、ちょっと潰れてる程度で丁度良いんだから! むしろアンタは私に感謝するべきよね! 見た所一つもチョコを貰えなかったみたいだし! 言っとくけど私からの手作りチョコなんて、常盤台の一部の子からは卒倒もんよ!?」「へいへい、そうですか」おざなりに返事をしながらも、二カッと笑顔になる上条。しかも更に、美琴の機嫌が直ったのを見計らって、ここで上条からのサプライズ。「んじゃあ、お返しって言ったら何なんだけど…」言いながら、上条はズボンのポケットから一枚の板チョコを取り出す。「あー…こんなスゲーの貰った後だと非常に出しにくいのですが、 ほら、逆チョコってあるだろ? 男から女に渡すチョコ。 けど上条さんの経済状況だと、恥ずかしながら板チョコ【こんなの】が限界でしてですね… 要らなかったら要らないで、無理して食べる事も……」気まずそうに板チョコを手渡す上条。美琴はそれを、そっと手に取る。そして今度は、美琴が満面の笑みでこう答えるのだ。「これ私にくれるチョコだったんでしょ? 私の許可無く捨てようとしてんじゃないわよ」美琴にとって、この日は一生忘れられないバレンタインとなったのだった。